「アンダスタンド・メイビー」島本理生
2010年 12月 12日物語は、つくばの学園都市から始まる。
公立中学の教室で、自分の居場所を
それなりに確保している黒江(ヒロイン)。
両親は離婚しており、今は母親とふたりで
暮らしている。関心を持ってくれない
ある意味冷淡な母だが、時々「男に対して
ゆるいから気をつけろ」とか口うるさくなる。
そんな彼女の初恋は、転校生の男の子。
大柄でもっさりしてるけど、特別な存在に
なっていく彼。首尾よく接近できたものの…
という、凡庸な中学生の成長小説風に始まる
本作。しかし、黒江が誰かを好きになる話が
何度か続くのを読んでいるうちに、次第に
「この子はどこか壊れてる?」とドキドキ
し始める。その理由が分からぬままにやがて
彼女は東京に出てきてカメラマンの弟子として
新たな一歩を踏み出すのだが…ひとりの少女の
15歳から20歳過ぎの軌跡を描いた小説なのだが
色々なテーマがぎっしり詰まってて、重たい。
その重みを全部受け止められたか分からないので
数年後に必ず読み返すと思う。
前半は「ツ・イ・ラ・ク」(姫野カオルコ)風の、十代の恋愛とセックスの話、
後半は、ある部分が、「1Q84」(村上春樹)的な不気味さに繋がっている。
それがひとつの小説の中に両方すとんと入ってて、恐ろしいほどの読み応え。
傷ついた人間がそれでも生きていくことの困難さ、でもやっぱり、死を
選ぶよりは生きて戦って気持ち悪くなったりつらかったりしても諦めない
ほうがいいにきまってる。みたいな強い気持ちを主人公から読み取って、
明るかったり面白かったりというのとは違うんだけど、読んだ後、なんだか
エネルギーがじわじわと沸いてくるような本でした。
定価3000円(上下)→3600円
ハードカバーでもっとつまんないので1800円とか2000円のものをたくさん
読んできたあとだと、この1冊1500円はとても良心的に思えます。