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「放蕩記」村山由佳

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「放蕩記」 村山由佳
38歳の小説家・夏帆は、幼いころから母を恐れ、そして、
その言動に違和感を覚えてばかりいた。
自分にだけ厳しく、娘の性的なあれこれは嫌悪するくせに、
夫と浮気相手の話になると「セックス」なんて言葉も言い放つ。
ほかのきょうだいにはそんなことしないのに自分にだけ、
あらゆる意味で厳しかった母…その思いを裏切ることに興奮
することに気づいた夏帆は、小説家になり、性的にも奔放な
日々を営むようになる。しかしある日母に「変調」が起こり…


割と「母と娘の愛憎半ばがぐっちゃぐちゃになった複雑な近すぎる女同士の関係」
に悩んだり葛藤する女性は多いみたいだ。学生時代の友人などにも何人かはいた。
そして、この小説に出てくる夏帆(=著者の村山由佳。そう、これ、かなり自伝的な小説
だと本人もあかしているのだ)や、母とうまくいっていない女性たちの多くが「浮気したり
ちょっとダメなところがあっても、父親は愛しているし、父に愛されている自信がある」
という点を大きな心の支えにしているように見受けられる。

で、「父に愛されている娘」を、女として母親側が嫉妬してちょっとキリキリして、娘は
ますます父親贔屓に、という悪循環。

彼女たちは「母親が苦手」とか「親子だけど気が合わない」ということに罪悪感を持ち
他の家庭の安らかな空気とうちはなんてちがうんだろう、と思う。

そんな娘たちのひとりで作家の村山さんがこの小説を書いたことには大きな意義がある。
同じように「母親との絆や愛情関係に自信がない娘たち」に、そういう人もいるし
そういう人生がダメだったり失敗ではないんだよ、ということを力強く語りかけてくれたという
意味で。きっと、この本を読んでホッとする人、結構いると思う。「こんな母娘やだわ」と
思って他人事で片付けられるに越したことはないんだけど、「母と娘がどうしようもなく
うまくいかないこともある」という事実に救われる人も多いだろう。

学生時代割と親しくしていた女の子がそういうタイプだった。「素敵で優しい父親が
なんで母のような女と結婚したのか」と言い切るほど、父>>>母って感じだった。
そして、その女の子が私にしたしうちが、怖いくらいこの小説に出てくるヒロイン母に
似ていた。芝居がかった口調で自分が主役になろうとする(失恋とか日常のもろもろを
大げさに語りヒロインになりきれる才能の持ち主だった)。私が痩せた時は無言だけど
太ったときは「ずいぶん肉ついたねーどしたの」とみんなに聞こえるように言う。
他の人に私の話をするときは、いい話はほとんどせず、失敗談をお笑いのネタみたいに
賑やかにさもおもしろいでしょっていう風に話す…ヒロイン母・美紀子と一致しすぎ。
で、ヒロインが母親にうんざりしたように、私も彼女にうんざりして、大学出てすぐに
縁を切って、年賀状も出してないし、今も、彼女の家の近くをバスで通り過ぎる時
「最近寝てなくて肌荒れ酷いし体重も多いし…ここで逢いたくない、絶対」とおびえている。

そこも、ヒロインの夏帆が、苛立ちながらも母親の影響を抜け出しきれずに40歳近く
なってもおどおどしてまわりに驚かれてるところとなんか似てる気がする。

で、ふと思ったんです。
彼女(学生時代のその、もと友達)もまた、彼女の母親からそういう仕打ちを受けていた
のかもしれない、と。褒められるより倍けなされ、欠点も口に出せばかわいいもんでしょ、
とずけずけと土足で心を踏み荒らされ、そういう風に育てられた結果、同性付き合いって
親しくなればそんなものでしょ、と勘違いして、悪気なく私を痛めつけることが
できたんじゃないかって。

そして。
彼女が私を「そういう友達」として選んだのは、もしかして私が彼女とは逆に「父親の愛情
無しに母だけに頼って育った女の子」だったことと関係があるのかもしれません。(※父は
幼少時は里子に出されたり親戚タライ回しされたりしてやはり「家族」としての経験値が
圧倒的に低い人生を送ってるので、それもしょうがないなーと最近「私が可愛い娘じゃ
ないからだ」と思うの、やめようかなって思ってるところだけど)

ここまで、ほとんど本の感想と関係ないですね、すみません。

でもね。
この小説を読むと、そういう「親と自分の間に横たわるもの」が何か(もちろんそれが
すがすがしくて普通にまっとうな愛情、であるケースがほとんどだとは思いますが)、
ということについて考えたり語ったりしたくなっちゃうんです。

共感も感動もなく、ただ、脳みそシェイクされて目が覚める感じ。
好き嫌いでいえば、嫌いなタイプの話かもしれない。だけど。
読む前の自分と読む後の自分の内面、何かが違ってる。そんな衝撃の1冊でした。

ちなみに、その、学生時代友人だった女の子は、今は、2児の母になり、ひとりは
娘だと人づてに聞いています。私は彼女とは2度とは会いたくないけれど、意地悪く
彼女が娘をどう育てるのか、ちょっと知りたい気もします。
by tohko_h | 2012-01-21 23:53 | reading