「女ともだち」「深く深く、砂に埋めて」真梨幸子
2012年 03月 18日「読み終わって頭上に何かがパーッと広がるようなお話が好き」なはずなのに
時々、どろどろのぐっちゃぐちゃの、人間って嫌ねー、みたいな本が読みたくなる。
読みたくないはずなのに読んでしまう桐野夏生は別格として、最近だと
大藪賞を先日受賞された沼田まほかるさんなんかもそうだし、多分この
真梨幸子さんも、そういう「どろどろ小説」の代表的作家のひとりに数えられている
のであろう。書店のポップなどでも、とにかく怖い、気持ち悪い、酷い話、
救いはないです、みたいに、潔いほどネガティブな言葉が並んでいる。で、
なぜか、そういうのにグッと引き寄せられる瞬間があるんだよねー。ってわけで
2冊続けて読んでみました。
「女ともだち」
郊外のマンションで殺されたふたりの女性。
宅配便の配達員の男性が逮捕され、裁判に
かけられる。しかし、ある女性ライターは、
そのことに疑問を持ち、独自に取材を始めた…
被害者周辺に渦巻く嫉妬や負の感情、狂気を
書いて書いて書きまくり、一番おかしい人は誰?
みたいな感じの、ややホラー風味な一編。
「深く、深く、砂に埋めて」
生まれた瞬間から美しかった有利子。彼女を
愛したことにより、平凡なサラリーマンも、
意志薄弱気味な弁護士も、人生の階段を
踏み外して落ちていく。冒頭の扉ページに
「マノン・レスコー」の一文が引用されて
いることからも、著者は、いわゆるファム・
ファタル物が書きたかったのかなーと思う。
どちらの小説も、一気読みさせる、時には強引なほどのストーリー運びが巧み。
「女ともだち」の中では「同じ会社の中の正社員VS派遣」とか「スターの
追っかけ社会のオキニ(タレントに好かれてる追っかけ)VSオキラ(嫌われてる
おっかけ。嫌われる理由はさまざま)」とか、「同じマンションを高い値段で
買った人VS値崩れしてから買った人」とか、色々なパターンの女同士の対立が
嫌な意味でイキイキと描かれていて、同じ経験が無くても、張り合ったり意識
してしまう同性が身近にいるとしんどいよねーっていうレベルでは共感をしそうに
なってしまう。
「深く深く、砂に埋めて」のほうは、結構ロマンティックな結末。異常に人を
ひきつけるレベルの半端ない美女のヒロインが、芸能界だと綺麗過ぎてあまり
大成できず、パーティーに顔を出して金持ちをひっかけるような人生を選ぶ、
というところには、美女じゃない私が読んでもなるほどーというリアルな感じ(笑)。
ただ、頭を使って男をおとす、みたいな話じゃないので(男が勝手にハマる)、
「白夜行」のヒロイン的な怖さは無かった。
そして、ドロ読み欲(ドロドロの話が読みたいという欲望。今命名してみた)を
満たすには、ちょっとどちらも物足りなかったです。フィクションフィクション
してて(ひとつひとつのエピソードは生々しく描写されてるんだけどやはり
お話の展開が少し雑だからかなぁ)、作家が頭の中で作った「おはなし」だなって
安心して読めちゃうからかもしれない。