「学問」山田詠美

a0079948_15412826.jpg
「学問」 山田詠美
静岡県の田舎町に東京から転校してきたフトミこと仁美は、
美男子でもないのにカリスマ性と強い心を持つ心太、
裕福な医者の息子で、とにかく食べるの大好き少年の無量、
授業中でもいつでも眠りたくなってしまう千穂、の3人と出会う。
そして、彼らは裏山の秘密基地に集う特別な仲間になった。
そこから始まる4人の小学校から思春期の完成までを描いた
青春というより、むしろ思春期小説と呼ぶべき傑作。



と書いても、面白さが伝わらないのがもどかしい。あらすじだけだと、地方都市で
4人の幼なじみたちが成長していく小説、で終わってしまうのだもの。
あらすじで判断して「地味そうだなー」と、この本をスルーする人は多いだろう。
私も、人がバンバン死んで謎がどんどん深まってどんでん返し、みたいな
ミステリーとか、イタタタと共感してしまう働く人を主役にした小説とか、割と
「いろんな事が起こって大変そうなのが最後にはどうにかなる話」みたいな
分かりやすい小説を普段は好むので、うっかりパスしてしまうところだった。
恋愛小説じゃない山田詠美なんて、とか思っちゃってね。
でも、ヒマつぶしに文庫だしーと買ってよかったです、ほんとうに。
「学問」というタイトルだけど、彼らが学校の勉強に燃える話ではもちろん無くて、
生きて行く上での心と体が覚えるべき事を学んでいくプロセス、みたいな意味
なんじゃないのかな、と読み終えた今は思う。滋味あふれる良いタイトルだ。
そして読者の心にも何か凄く栄養になるような感じがする。

学校でいろいろなタイプの人と接したり、親が、親ではなくて生身の男女に見えたり
エゴを持つ人間として見えたり、という子供の目線で描かれた小説世界。
子供のころは怖いことがいっぱいあったな、ということを読んでいて思い出す。
クラス替えも怖い。
親のセックスをうっかり見てしまうのも怖い(父が母をいじめている、と思い、両親の
不仲や離婚を想像して怯える子供心が可笑しくも切ない)。
友達より早く大人になるのも、遅れるのも同じだけ怖い。
大人になった今の自分から見たら「どれも、当たり前のこと」なんだけど、リアルタイムでは
自分もビビったなーみたいな懐かし苦笑いの連続である。

そして、男子の性欲の目覚めをカラっと書いた素晴らしい青春小説はいっぱいあるのに
なんとなく「恋人ができてキスされて寝て…」みたいな流れとしてしか描かれない女子の
性について、もっと能動的に描かれているのも、さすが詠美さん!である。
仁美は、その気持ちよさがセックスにつながってると知らぬまま、自分の体に快楽を
与える方法を学習し、やがて、文学作品のラブシーンや男子の体のパーツをイメージ
することがその気持ちよさに加速をつけてくれることを知る。小太りな少女が性欲に
目覚めて一人であれこれする、なんて、普通に考えたらちょっとグロいかなーってところを
山田詠美の品格あふれる文章でスパッと書かれると、いいもの読んだな~と素直に
受け入れられてしまう。もう魔法の域だ。

そんな仁美は、性欲。
食欲少年の無量は、食欲。
よく眠る千穂は、睡眠欲。
人間の三大欲望をそれぞれフルに楽しみ、学んだ三人と、彼らにとってかけがえのない
愛すべき友人の心太(彼は、厳しい家庭環境で育ったので、心を大人にする、という
「学問」の優等生なのかも)の成長と人生をじっくり見守るような、そんな濃い時間を過ごせる
1冊だった。

大人の人には無条件でお勧めしたい本ですが。
リアルタイムの思春期の人には、どうなんだろう。
大人になる「学問」の優秀な参考書になりえるかもしれないけれど、やっぱりそれは
自分で経験値上げていくのがつらくも大切なところだしなぁ、とも思う。

ちなみに、心と体の成長に翻弄される地方都市の少女を描いた姫野カオルコの
「ツ・イ・ラ・ク」と一緒にお勧めしたい感じもしました。
どっちもせつなくていい本です。
[PR]
by tohko_h | 2012-04-04 16:05 | reading