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「マウス」村田沙耶香

しばらく、本を読むこと自体をやめようかな、と思うほどハズレな小説ばかり
引き当ててしまい、ファッション雑誌と三浦しをんのエッセイばかり読んで
暮らしてましたが、久々に心に刺さってきたものが何冊かあってよかった、
というわけで本ネタでございます。
「つまらない本が嫌いでも…ど、読書は嫌いにならないでください」と、演説
されたような1冊(この、前田敦子ちゃんの演説ネタもそろそろ古いかしら(笑))。

さて、というわけで、村田沙耶香の「マウス」です。最近だと、自分の性と折り合いが
つかない女性たちを描いた「ハコブネ」で話題になってる作家さんですね。
私は、あまり自分のなかにそういうテーマがないので(むしろ、せっかく女性に生まれた
のに、なんで女らしくないんだろう、と、そっちで悩むので、自分は男子かも?と悩んで
乳を平らにするブラジャーをつけるヒロインの気持ちがあまりわからなかったのでした)
そちらはささらなかったのですが。

パッとしない公立小学校の女子生徒として育った私には、キタキタキター(この文章の
「パッとしない」は、どこにかかるでしょう。①公立小学校②女子生徒③私…正解、
たぶんすべてに)という感じの、高学年の女子って大変ね小説の傑作が「マウス」です。

「マウス」村田沙耶香
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場面は小学校5年の1学期の始業式から。
主人公の田中律は、大人しめの女の子。
去年まで親しかった子たちとはクラスが離れ
「早く自分に似た子を探して組まないと」と焦る。
この必死な感覚を大人になっても覚えてるところが、
やっぱり作家の記憶力って偉大だな、と、一気に
物語に引き込まれていった。物語のメインは、
クラスに溶け込めないやせっぽちで背の高い瀬里奈
という女の子と律の交流なんだけど、その背景にあるクラスの女子の人間模様の
描きこまれ方が、小学校高学年思春期あるある、みたいな感じで生々しかった。

地味な律は、クラスの女子を見渡していて「よそのクラスから見てもあそこのグループが
一番だと分かる」メジャー組、とか、「同じくらい着飾ってもメジャーグループより
劣るグループ」とか「自分たちは大人しいグループで済んでるけど
あっちの大人しいグループは男子にキモい、と思われている。大人しい、と、キモい、
の差は、メジャーな人から話しかけられたときの反応に卑屈さが混じってるかどうか
なので緊張する」とか、もうねー、11歳の子が考えそうなことがネチネチ描かれて
いるのです。メジャーグループの子だと先生とタメ口率が高いとか、あるあるって感じ。
最大の秘密(心から信頼されないと打ち明けてもらえない)が「好きな男子のイニシャル」
とかね、わー、あったあった、と、悪い意味で記憶の扉がバンバン開きます(笑)。

そうそう、こういう粘り気、あった。
自分が女子として価値があるかどうかが気になる年代で、そこに、初ブラジャーとか初潮とか
初恋(幼稚園時代とかと違い、そろそろ、付き合うということが視野に入ってくる?)とか、
面倒なハツモノがどっとおしよせる時期なんですよ。その面倒さがつらくて息苦しくて、
コドモのときとは異質の、大人の私たちが持つのに近い(そして未熟さゆえにあやうい)
残酷さにスイッチが入ってしまうんだな、と今ならわかる。

しかし、当時はつらかったです。
どちらかというと、そういう残酷さをぶつけられたことの方が多かったいじめられがちの
ローティーン時代を送ってたもので。
私の場合、こんなところで謙遜してもしょうがないから書くけど、成績がいつもクラストップ。
で、それゆえに「成績がよくても羨ましくないあの女」とは思われたくないわけです。女子には
成績なんかより重要なことがあるって、もう7,8歳からみんな知ってるから(笑)。でも、
親の趣味でいつも変なヘアスタイルだったし、服も小学校5年くらいまで興味無かったし、
でも第二次性徴は早めで老け顔。イケてる小学生女子を気取るには色々足りなくて、でも
テストとかあると目立っちゃって、その分、運動会で足が遅いとか絵がヘタとか、
人目につくアラはより悪目立ちするという。
「成績が良いのでクラスで名前を覚えられるのは早いし時々委員とかもやるけど、メジャーな
人気者とは全く違う人」という位置でいられればまだましなほうって感じで…小学校5年から
中学くらいまでは、いろいろ生きにくいタイプの子供でした。

なので、そのころのことを思い出しつつ、うへー、やだー、そうそう、あったあった、とか
ひとりで突っ込み祭りしつつあっという間に読んでしまいました。

もちろんそういう「イタかったあのころ」を振り返りつつ大人が読むのもいいと思うんだけど
現役思春期で、そういう「教室での位置づけが怖くてたまらない子」にも薦めたい1冊です。
小説の後半で、主人公たちがみんな10歳くらい年を取って大学生や社会人になってる
パートのお話になるんだけど、小学校の時は「あのグループはメジャーでドキドキ」みたいに
思っていた人と普通にヒロインもしゃべれるようになってるんです。そうなんだよ、そんな
ものなんだよ。教室の壁と天井とっぱらったらみんな同じ子供なんだよ。みたいな
大人目線のエールにも思えたりして、ちょっとホッとできるかも。
by tohko_h | 2012-04-25 10:55 | reading