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「ラジオ・エチオピア」 蓮見圭一

「ラジオ・エチオピア」 蓮見圭一

とにかく、知的でお金持ちの男女が、よいワインを飲んで文学や音楽を語り
素敵なホテルでセックスして、という、固有名詞がちりばめられた
豪華というかバブルの残り香がただようというか(日韓共催ワールドカップの
年の話なので、そういう時代じゃないんだけど(笑))、とにかく
叶姉妹を見て「すごいなー」としか言いようがない庶民、みたいな感じで
優雅で退屈そうな彼らを傍観するしかできないような、最後までどこにも
入り込めない小説でした。
ディテールが豪華すぎたから、だけではなく、感情を表現する言葉も
古今東西の哲学書とか小説から借りてメールを書いてくるようなヒロインなので
生々しくないんですよ。悪く言えば色気が足りないかな?みたいな。

主人公は、小説を書きつつ、匿名で雑誌記事を書く仕事もしているんだけど
横浜で知的な妻と双子の子と暮らす男の人で、もてるらしい。
相手の女性は、東大卒、ライター。英語フランス語中国語の通訳・翻訳も
できる才女で、ブランドもののスカートがよく似合う、美人といっても
差し支えない31歳のはるか。前の夫との間に子供もいるが、本人に
生活感はない。知的で文章がうまく文字もきれい。そして情熱的。

「ちょっと前に、女をひっかけた。いや、ひっかけられたのは
僕の方だったかもしれない。」というおしゃれな書き出しで始まり、
最後までおしゃれに進行する不倫もの。メールを盗み読みした妻と
その盗み読みを知って逆上するはるかのお互いの罵りあい(直接対決じゃ
ないんだけど、すごいです)が、唯一生々しくてこの小説にしては
下世話だったけど…そこがいちばん小説っぽくて生き生きしてるな、と思いました。

はるかが彼に送るメールに出てくる古今東西の恋愛うんちくらしきものが
面白かったです(笑)。帯のあおりにも使われている「嫉妬する私は四度苦しむ…」
というロラン・バルトの言葉が印象的。

「恋愛のディスクール」 ロラン・バルトより
嫉妬する私は4度苦しむ。嫉妬に苦しみ、嫉妬している自分を責めて
苦しみ、自分の嫉妬があの人を傷つけることをおそれてくるしみ、嫉妬などと
いう卑俗な気持ちに負けたことで苦しむのだ。つまりは、自分が排除されたこと、
自分が攻撃的になっていること、自分が狂っていること、自分が並みの人間で
あることを苦しむのである。

確かに、最終的に、美しくないと知っていて嫉妬という感情を身ごもってしまった
自分が一番嫌になっちゃうのよね。嫉妬じゃなくて、コンプレックスとかも
そうなんだけど。
このロラン・バルトの本、面白いかも。ちょっと買ってみようかな、とアマゾン見たら
3600円くらいする…とりあえず明日、時間があったら神保町の書店を見てこようかな。
by tohko_h | 2006-07-17 20:06 | reading