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日記2冊+なんだか前向きすぎる小説+豊島ミホさん2冊

最近読んだ本についてざっくりとまとめて。

「残花亭日暦」(ざんかていにちれき) 田辺聖子 
女流作家・田辺聖子さんが病にたおれた夫を送るまでの日記。と書くと、重ための
介護日記みたいなのかな?と思っちゃうのですが、ユーモアは絶対に欠かさない。
それが、この作家さんの品格だと思う。「かわいそに。ワシは あんたの。味方やで」と
いうのが夫が田辺さんに残した遺言。「守ってあげる」なんていえない世代のご主人にしたら
最高の愛の言葉だ。ご主人の葬儀のときの、田辺さんの作家仲間の弔電や
弔辞がすばらしくて、読んでいて泣けました。そして田辺さんの喪主挨拶も。
このへんの場面は、実際のお葬式について描かれているのに、何かすごい
小説を読んでいるみたいな緊張感がありました。


「いしいしんじのごはん日記」
 いしいしんじ
小説は読んだことがないのですが、作家・いしいしんじさんの自炊をメインにした日記。
飄々とした文体、海の近くで暮らし、おいしい魚を食べる日々はすーっと読めるのですが
作品とか人となりを知らないで読んでいるせいか、やや退屈な感じもちょっとしました。

「天使の守護のアリエッタ」 松岡圭祐
日本で借金を負った33歳のヒロインは、職探しのために韓国へ。そこで
ひょんなことから、ある女優のスタントをすることになり…韓国芸能界を舞台にした
軽めのミステリー。韓国スターの名前が沢山出てきたり、ソウルの町の様子が
読めるので、そちら方面への興味があれば面白いと思いますが、小説としては…
ヒロインが後半、色々あってやたら前向きになる感じがなんだかドラマの最終回で
あれ?みたいな唐突な感じでした。そしてなんでこのタイトル…単行本のときは
「ソウルで逢えたら」←こっちのほうが、韓流っぽくていいんじゃないのかしら。

「エバーグリーン」 豊島ミホ
漫画家を目指すアヤコと、ミュージシャンを志すシンは、それぞれ平凡な田舎の中学生。
しかし、お互いの夢をふとしたことで話すようになり、別々の高校に進んでも、10年後に
また会おう。オレがアヤコにささげる歌を歌うから、アヤコも漫画家になってるんだぞ!
なんて約束を交わす。田んぼを肩を並べて歩く二人とか、他の友達にウソをついて
一緒に帰ろうとする、なんて、青春すぎて気恥ずかしいほど美しい。だけど、まだ20代の
豊島さんだけど、そのあとの残酷な現実までペンを進めていく。両方の夢が叶って
やっと逢えたね!なんていうドラマみたいなハッピーエンドなんて、そうそうあるものじゃ
ないってちゃんと書いているところが、また痛々しいけど、現実も悪くないじゃん、と
救いがあってよかった。
感傷的過ぎず、かといって容赦なく破綻もしてなくて、いい小説だったと思う。

「底辺女子高生」 豊島ミホ
その、豊島さんの高校時代を描いたエッセイ(イラストも自分で描いてるけど上手!)。
底辺…つまり、クラスで、メジャーなグループにも入れず、なんとなく、女子同士の
格付け合戦で一瞬でビリが確定してしまい、居場所がなくて、家出したり保健室に
通学したり、という高校時代をユーモアと痛さをうまくブレンドして描いたエッセイ。
高校時代の私は、人気者でもモテモテでもなかったけれど、クラスで誰よりも
「底辺」とも思ったことがなかったので、これを読んだのが18歳のころだったら「なんか、
大変な人もいるな」と、クラスの人たちと一緒に豊島さんの話を上目線で読んでしまった
かもしれません。だけど、大学時代…底辺女子大生(地方出身/気の強い子に足元を
見られる/お笑い枠に押し込められそうになる/クラスで一番できないっぽい科目が
あって当時の彼氏にまで勉強したら?と呆れられる(しかもその彼氏は、私のことを
好きだった子と似てるから、という理由で口説いたと後に発覚))と言ってもよいような
辛い年もあったので、読んでいて、一緒に辛かったです(笑)。あ、会社で一番役立たずは
自分で、もしひとりだけクビにしろっていったら自分だろうな~って落ち込んだときに
思うことはいまだにあるし。そういう意味で「底辺気分」は今のほうがリアルに感じます。
あとは、豊島さんの高校も私と同様、北国だったので、スキー学習がいやで、
最後の授業のあとにすごい解放感があった!みたいなのも共感しました。
青春小説、学生小説をやさしくてヴィヴィッドな言葉で書いている豊島さんですが、
「こういう青春だったら、私ってどんな風だったのかな?」と、当時できなかったこと、
憧れていたことを想像力の養分にして、このジャンルの第一人者になりつつあるの
だとしたら、それは賢くて少し切ない辻褄あわせかもしれません。
by tohko_h | 2006-08-06 22:50 | reading