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「一瞬の風になれ」全3巻 佐藤多佳子

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「一瞬の風になれ」 全3巻

第1部 イチニツイテ

第2部 ヨウイ

第3部 ドン



兄と一緒にサッカーを続けてきたが、才能の差を感じ、伸び悩む新二と、
親友でめちゃくちゃ脚の速い連。ふたりが、県立の、強豪とはいえない
春野台高校陸上部に入部して、スプリンターとしてのスタートを切る。
サッカーから転向して、走ることにのめりこみ、やがて、その黄色く染めた髪が
目立つこともあり注目のランナーとなっていく新二。
天賦の才を持ちながら、食べ物に好き嫌いが多く、めんどくさがりやで
気まぐれなところもありなかなかのめりこまない連。
対照的なふたりを中心に、個性的な先輩、クセッ毛で口調は荒っぽいけど
いい兄貴分タイプの顧問のみっちゃん先生(くりぃむしちゅ~上田さんが
モデルじゃないかと疑ってます。容姿の描写がかなり…)とか、男の子も
女の子も走ることが好きで、それぞれにひたむきで読んでいて清清しい小説。
高校入学ちょっと前から始まる第1部~新二と連のふたりが3年生になる
第3部まで、基本的に練習・合宿・大会について丁寧に描かれている物語
なんだけど、陸上について何もしらない自分が読んでもまったく飽きることなく
この3ヶ月(1ヶ月1冊ペースで刊行してたのです)「次どうなるんだ?」と
毎月、お気に入りの雑誌の発売日みたいに楽しみに読み継いでました。

他校のライバル、あとから入ってくる後輩たち、他の種目に挑んでる仲間たち、
彼らが練習でどんどん速く、強くなっていくプロセスをきちんと描きつつ
同時に「才能の差」についてもシビアなほどきっちり触れている所が、
甘くて熱血なだけの旧来の青春小説とは違うなーと好感もてました。
例えば、リレーのレギュラーメンバーを決めるとき、既存のメンバーより
良いタイムを保持する下級生が入ってきた。今までのメンバーで心が
通じてる状態で走りたい気持ちもあるけど、速いメンバーを取るべきか、という
葛藤とか、途中で種目を転向する女の子のくだりとか。だけど、才能が
足りない人は走るなとかやってもムダっていうことじゃなくて、それでも
自分の体ひとつで走って走って、というところにせつなさと感動があります。
いけすかないと思っていた他の学校のライバルと大会ごとに顔をあわせて
いるうちに、だんだん「こいつと次も走りたい」と新二の気持ちが変化している、とか
細かい心情もよく描かれていて、スポーツものにしては地味かもしれないけど
普通の高校生が走る人としてモリモリ成長していく様子がたくましくって読んでいると
元気が出ます。意外と、脇役のシーンで何回かうるっと来ました。
顧問のみっちゃんとか主人公の家族とか大人も魅力的に描かれてる所も◎
正直、1巻目は、部活とかキャラクターの雰囲気を掴むためのもの的な意味合いが
強いので、少しゆったりしてますが、途中で加速してからがぐっと引力が増す物語。
ゴールまで読むと、爽やかな風が胸を吹き抜けることでしょう。

ちなみに、先ほど、フィギュアのグランプリシリーズ第1戦@アメリカを見ていて
安藤美姫選手のショートプログラム見てて泣けました。体の線もトリノのときより
綺麗に引き締まってたし、颯爽とハツラツとダイナミックに、という彼女らしい
すべりと、終わった後の、アイドル扱いされやすいあの「にっ」という笑顔も
出て「戻って来られたんだ」って。彼女も、才能+α、を積み重ねて強くなったんですね。
もちろん、ここんところずっと熱く(暑苦しく?)語ってた球児のみなさんも。
by tohko_h | 2006-10-28 20:38 | reading