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「夢を与える」 綿矢りさ

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「夢を与える」 綿矢りさ
物心つくかつかないかの幼いころから
CMのモデルとして、虚構の世界の
「ゆーちゃん」を生きてきた夕子。
ステージママの母親と、
他に好きな人が居る父親。
真面目な学生キャラで売るために
入った私立高校。
映画、テレビ、イベント、CDと、大きな
仕掛けの中で有名になっていく夕子。
売れなくなったら、という怖さを抱えていた
彼女がある日出会ったのは・・・

少女漫画の芸能サクセスものとちがい、芸能界の「影」の部分も
描いているお話。わがままも言うし親ともぶつかるし、
友達からも浮いている、という、いいことばかりじゃないところが
リアルで地に足が着いている。同じ作者が描いた普通の高校生の話
「蹴りたい背中」よりむしろ現実的な書きかたになっている。
文体が落ち着いた感じになったせいもあると思うけど。

母親がステージママとしてのめりこんでいく様子は、かつて
一世を風靡して力士と婚約破棄をしたあの人とか、
子役デビューして一時母親と微妙な関係だったけれど
今はできちゃった結婚でそれなりにおちついているあの人とかを
思い出すし。
「学生らしい雰囲気で売りましょう」と言う為に大学受験までもが
ひとつのキャラクター作りの企画として進められる夕子の事務所の
戦略は、W大学に入学するしないで騒ぎになったトップアイドル女優を
イメージしてしまった。
他にも、あの人もこの人も・・・という感じで、実際の女性タレントの顔と
夕子が読んでいて重なるところが何度かあった。
そして、夕子のもがく痛々しさは、少しだけ、作者の綿矢りさにも重なる。

10代のうちに芥川賞受賞作家となり、清楚で文学少女のイメージに
ピッタリなかわいさだった綿矢さんは(また、同時受賞した金原さんが
どちらかというとエロカッコいい系のビジュアルで露出の多い服を
着てたりもしたので)、そういう消費をされてしまうことが怖い、と思った
こともあるのかも。

夕子が惚れる男がほんとうにもうどうしようもなくて、そして
彼女も途中から「どうしようもない男」ってわかったのにとりあえず
ひとりじゃないと思いたくて執着するあたりは、読んでいて
ほんとうに物悲しい気持ちになりました。
by tohko_h | 2007-02-08 13:21 | reading