「ツ、イ、ラ、ク」「桃―もうひとつのツ、イ、ラ、ク 」 姫野カオルコ

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「ツ、イ、ラ、ク」姫野カオルコ

扇情的なタイトルとカバーデザインに
ドキっとしながら手にとった
姫野カオルコの恋愛小説。
直木賞にノミネートされたり、
単行本発売当時結構話題に
なって、そのときも読んだのですが
濃すぎて疲れて…またまた
疲れそうな予感を胸に再読。
ヒロインが物語のラストシーンで迎えた
34歳に自分がなっていることに軽い衝撃を受けつつ(笑)。

タイトルと過激なカバーにある期待をして(かなり
エッチですごい恋愛ものなのかな、方向の(笑))
ページをめくり始めると、肩透かしをいきなり食らう。
公認のカップルの男の子と仲良くした、とある女の子が
6人の女の子に囲まれて、小突かれたり砂を背中に
入れられたり、粛清という名のリンチを受ける場面から
物語は始まる…小学校2年の少女たちが。

長命市、という関西地方に設定された田舎町の小学校から
物語は始まる。上の兄姉の影響で色気づいている統子、
学年いちの美人の京美、まるいおでこがカワイイ温子…
彼女らのグループにいながら、たとえばこのリンチのときに
「もうやめようよ!」とさらっと場を変えてしまう力を持った
大人びた準子。彼女たちの力関係、人間関係の濃密な
描写は、教室でそういう生存競争めいたことを必死でしていた頃の
ことをイヤでも思い出す。そしてやがて訪れる思春期、
中学進学を迎えるまでの日常が、淡々と描かれる。
淡々としすぎていて、退屈なほどだ。
しかしこの退屈な田舎町の少女たちの日常、というのは
長い長い前座である。無風に近い狭い世界。そこで
恋の嵐が吹き荒れる「瞬間」を描く為の壮大な仕掛け。

中学に入り、交換日記が最大の愛の証であると同時に
性欲とも向かい合う。中学生男子の性欲はともかく、
女子の性欲について描いた小説っていままでにあまり
なかった気がして、それも新鮮だった。そして、あの日
リンチを止めた準子が、14歳で恋愛事件を起こして、自分が
つるし上げられそうな危険な深みへとはまっていく…
タレントのスキャンダルも不倫も気軽に消費されている
21世紀の今、恋愛は事件になりえないかもしれないけれど、
この時代、田舎の少年少女の間では「事件」としか
言いようがなく・・・
そのはまり方が「ツ、イ、ラ、ク」としか言いようがないくらい
まっしぐらで不純物が入っていなくて…あまりにも純粋に
相手を求める準子と相手の男の激しさにゾクゾクする。

冒険小説でもホラー小説でもありえない、恋愛もので
こんなに心拍数が上がるなんて…前に読んだときは
幼なじみと呼ぶべき長いつきあいの少女たちの濃密な
つながりが息苦しかったけれど、今回は、恋愛の部分で
息苦しくて胸がちゃんと痛くなった。疲れるので何度も
繰り返し読みたいとは思えない。それは、ちょうど
準子がこの恋愛に完全燃焼して、せつなさにくたびれて
しまった別れのあとの気持ちと似ているかもしれない。


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「桃―もうひとつのツ、イ、ラ、ク」姫野カオルコ
「ツ、イ、ラ、ク」の舞台・
長命市で、当時、準子と同じ
学校で時をすごしていた人たちの
物語を集めたスピンアウト作品集。
蛇足感もあるが「ツ、イ、ラ、ク」では
熱く時には痛みを伴うように激しく
抱き合っていた準子と恋人の
優しい一夜が描かれた「桃」は
美しい短編だった。32歳になった
準子は、桃を食べると、
お互いを飲み込むようなキスをしあった
14才の日々を思い出す・・・
続けて読むと、「ツ、イ、ラ、ク」のどこか冷めたような作者の筆致と比べて
温度や湿度を感じて、物語が膨らんだ気がした。まるで桃の果実のように。
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by tohko_h | 2007-07-27 16:32 | reading