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「あなたの呼吸が止まるまで」島本理生

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「あなたの呼吸が止まるまで」
島本理生
一見、甘い恋愛小説みたいなタイトル。
「あなたの呼吸が止まるまで好きよ」みたいな。
しかし、主人公の朔が「あなたの呼吸が止まる
まで」やってやろう、と誓うのは、恋ではなくて、
復讐なのだ・・・


離婚した母とは離れて暮らし、舞踏家の父親と暮らす12歳の少女・
朔は、父の仲間のアクの強い大人たちと一緒にいる時間が
長いこともあり、ちょっと他のクラスメートとは違う雰囲気を
たたえている女の子。それでも、大人びたクラスメートの女の子や
話しやすい男の子も少しはいるし、思春期目前、という危うい
時期を、彼女なりに健やかに暮らしていた。そんな日常を
壊すような、ある人からの「突然の暴力」…
帯に書いてある「突然の暴力」というフレーズと、島本作品の
「ナラタージュ」のある脇役のエピソードを考え合わせると
読む前から、朔の身に起こることがなんとなく読む前から
見当がついてしまった。しかし、その暴力は、物語の後半で
突然起こるのだが、そこまでの12歳の朔の日常が描きこまれている
物語の前~中盤の読み応えが素晴らしい。

12歳というと、女の子同士のいじめ(というか、それ以前の小競り合い、
いやみ合戦)はかなり生々しいし(異性もからんでくるし)、肉体的にも
生々しい話になっちゃうけど、初潮を迎えた子もだいぶ割合的に
増えてくるし、本当に、大人の階段のぼるシンデレラ、みたいな
時期である、女の子にとって。その時期に、梯子をはずされて、
硝子の靴をむしりとられたような朔は、これから何があっても
もう子ども時代に戻らない、という取り返しのつかない記憶を
持つことになってしまい、それを受け入れるために復讐を誓うのだ。

と、なんだか抽象的な文章になってしまいましたが、たとえば
昔の山田詠美の「風葬の教室」とか「蝶々の纏足」あたりの
少女の自意識文学、として、この作品も、かなり完成度が高いと
思いました。
by tohko_h | 2007-08-31 11:22 | reading