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「ラン」 森絵都

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「ラン」 森絵都
児童文学→直木賞、という著者の
履歴と、タイトルから、先入観
バリバリで手にとった本書。
きっと、三浦しをんの「風がつよく
吹いている」とか、佐藤多佳子の
「一瞬の風になれ」的な、走る少年、
あるいは少女的な陸上バナシだと
見当を勝手につけちゃったのです。
あさのあつこもなんか陸上もの
書いてたかな、とか。


しかし、本書の主人公は22歳の女性です。冷めてます。
スポ根もののヒロインが最初はテンションが低いというのは
割とありがちかもしれませんが、このヒロインが冷めてるのは
生きることに対して。家族や愛するものを失い続ける人生に
疲れているのです。
しかし、ある理由から、マラソンに相当する距離・40キロを
走破しないといけない必要にせまられ、ひとくせもふたくせも
あるメンバーばかりのランニングチームに入り、駒沢公園や
皇居で練習を始めます。クセのあるメンバーとのぶつかり合いや
さまざまな事件にぶつかる主人公。彼女は果たして、
スタートラインに立つことができるのでしょうか。

と、ネタバレに配慮した粗筋を書くと、なんてことはない、やはり
「前向きに誰かが走る物語」的になっちゃいますが、えっとですね、
これ、ホラーファンタジーな要素もあるんですよね。ヒロインの
周りには死がたくさんあふれてて…よしもとばななの
「ムーンライト・シャドウ」的な、三途の川の向こう側とこっちの
交信、みたいな話がからんでるんです。若くて健康なのに
現実世界より死の世界が近くにあるように感じているヒロインが
走ることを通して、地に足をつけていく、そして、イヤでも
寿命を全うしていくしかないんだよ、ということを受け入れていく…

小説は、うしろの4分の1は凄くよかったです。
ランニングチームの人たちの個性が凄く活きてきて、エピソードも
テンポよくたたみかけられ、いいセリフもいくつもあって。
でも、そこまでの話(とくにヒロインがランニングチームに入る
までの諸々)が退屈で…「つまらない本は途中で投げる」という
タイプの人だったら、後半のいいところを読むまでに至らないかも
しれません。あと、文章の途中に、携帯小説とか、ブログ的な
「〇〇なんだよね」という文体が頻出なのも、いくら一人称小説とは
いえ、すごく違和感。別にそうする必然性を感じなかったので
(そういう表現を使っても、ヒロインを身近に感じられることもなかったし、
むしろ幼稚な印象が強まり、小説としての格は下がったと思う)。

とりあえず、いわゆる、走ることによって胸の中に風がふいてくる、
みたいな感動作とは、よくも悪くもだいぶ違う、タイトルの割には
走る楽しさが生理的に描かれていないところもちと弱い、そんな
ランニング小説です(もう、ジャンル名つけたほうがいいかも?)。
by tohko_h | 2008-06-24 23:57 | reading