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「もっと塩味を! Plus de sel, s'il vous plait!」林真理子

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「もっと塩味を!Plus de sel, s'il vous plait!
(プリュ・ド・セル、シル・ヴ・プレ!)」
林真理子
和歌山県で育った美しく
食いしん坊の女性が、
フランス料理に魅せられて
夫や子を持つ身ながら
シェフに恋をした…
そこから、フランス料理の
店を持つことが彼女の
夢となった。そして
パリで重ねる苦労の日々。
ミシュランの星獲得を目指す
男を必死で支え続けることに…


林真理子さんは好きなものを描くと筆が生き生きとしている。
お洋服の話題や歌舞伎や舞台見物の話、旅行の話とかが
好きなんだろうな、と思う。小説の中でも、そのへんの描きこみに
気合が入っているように思う。あとは時々、和服あたりも。
そして、なんといってもおいしいものを愛しているのが彼女の
書くものからはいつも伝わってくる。
エッセイでもいつもおいしそうなワインや食事の話が
愉しげに、そして読者の憧れを誘い込むようにゴージャスに、
さらにサービス満点で(その後太っちゃった、とか、酔っ払っても
他の女性がモテてた、という自虐ネタを忘れないところは
大物になってもなんだかかわいらしくさえある)描かれている。
今回は、食いしん坊の女性で、おいしいものを愛し、それを
作り出すシェフにも心惹かれてしまうヒロインの、一見
自分勝手に見えて必死な半生をドラマティックに描いている。
もともと食べ物がたくさん出てくる本が大好きなので、うっとりと
読みました。勿論フレンチの描写が多いのですが、おすし屋
さんで、こはだと酢飯の間にえびのそぼろを敷いたお寿司、
なんて、読んでいるだけでおなかが減ってきます。また、一流の
シェフと男女の関係になって、次の日の朝にちょこちょこっと
おいしそうなアスパラのグラタンなんかを作ってもらうシーンは
読んでいて「いいなぁ」とうっとり(笑)。というわけで、恋愛とか
人生についてあれこれ考えるというより、グルメ本として(実在の
レストランの名前も結構出てきます。80年代バブル華やかなりし
東京の風景の中にしっかりと描きこまれてます)楽しんじゃいました。
ただ、やはり、若いときの林さんの作品と違って、「食」という
人間の生に関連するテーマを扱いつつも、死についてもきちんと
描きこまれているあたり、それなりの重みと、ずっしりとした後味も。

ワインにたとえると、バブルのときに「新鮮!」とそのフレッシュさと
女性の本音をダイレクトに描くことで世に出てきた林さんが
ボジョレーヌーボーだったとすれば、今の作家・林真理子は、
しっかりヴィンテージとして熟した書き手になっているな、と思いました
(エッセイは相変わらず外国モノのビールのように軽やかですが)。

といってもリアルなフレンチについては疎い私は分からなかったのですが、
このヒロインにはモデルになった女性が実際にいたみたいですね。
by tohko_h | 2008-08-25 22:25 | reading