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「春情蛸の足」 田辺聖子

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「春情蛸の足」
田辺聖子
恋と食べ物が主人公のカワイイ小説集。
おでん屋で再会した、初恋の女、
理想のお好み焼きを出す店の女、
うどん屋で出会ったつつましい女、
などなど、中年男性の視点で、
女たちと食べ物との出会いと、おかしくて
ちょっぴり侘しい恋模様を描いた作品が
詰まっています。


おでんにうどん、タコ焼きにお好み焼き、てっちりにすき焼き、と、
庶民的な食べ物が主なので読んでいておなかが減ることうけあい。
最低でもポテチの一袋でも確保しておいてから読むべし。

色気より食い気、という言葉はあるけれど、この小説は、食い気と
色気を両方満たされた状態でホクホクする男性が主人公だ。
美味しい食べ物を一緒に楽しめる女性なら、多少タイプじゃ
なくても、ちょっとした美人よりよくなってほだされるパターン。
田辺さんの小説って、食べ物の描写もすごくおいしそうだけど、
美人じゃない女性のようすを描くボキャブラリーもすごく豊かで
生き生きしてる(笑)。肉厚の顔に細い目鼻、とか書いてあって、
なんとなく、声やしぐさまでイメージしてしまう感じ。
確かに似顔絵描くときも、整った顔よりいろいろ癖のあるほうが
描きやすいとはいうけど…文章でもそうなのかしら。

そういうわけで、美男美女もおしゃれなごちそうも出てこない
日常に根ざした小さなお話。軽い気持ちで明るく読んで、
ごちそうさま、で、オッケーです。食べ物の話ってどうしても
性的なものや生と死みたいな重たい裏テーマを匂わせてる作品が
多い気がするんだけど、これは、単純に「あーおいしかった」で
すませちゃってオッケーでしょう。


以下余談。
ものを捨てることを関西弁で「ほかす」というのは知ってましたが、
小説の中では

放下す、と書いて「ほかす」と読ませてました。

当て字かもしれないけど、なんか、しっくりくるな~と感心。

ちなみにわが北海道では、捨てる、は、

投げる、

です。

小学校のとき「ゴミ捨て当番」のことを「ゴミ投げ当番」と呼んでました。

ちょっとワイルド(笑)。
by tohko_h | 2009-06-22 18:25 | reading