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「喋々喃々」小川糸

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「喋々喃々」 小川糸
「食道かたつむり」で食べることと
生きることをテーマにデビューした
小川糸さん。初期吉本ばななの
ような味わいのゆったりしつつも
おしゃれ感もあり、若い女子に
ウケそうな作家さんだな~と
思ったら、今度はそういう意味で
より確信犯的な2作目が登場と
あいなりました。


ヒロインの栞は、20代後半の女性。
離婚した両親のどちらとも離れて、ひとりで谷根千エリアで
古い着物を扱う小さな店を営み、静かに暮らしている。
しかしある日、着物を求めて男性客が来店し、短い言葉を
かわしただけなのに、何か強い印象を覚え、やがて
それは恋へとなっていく。しかし彼には妻と娘がいるようなので
ふたりは、おいしいものを下町エリアで一緒に食べて、
それだけで楽しい、というある意味初々しい付き合いをしばらく
続けるが…
というわけで、恋愛ものとしても女の子のお仕事ものとしても、
無難っちゃ無難なんですよこの話。
そこに、離婚した両親とか姉妹の話、ひとつ前の恋の思い出
なんかがからんで、2時間くらいの映画にはなるかしら?
くらいの、テンポもゆったりしたストーリー。

しかし、そんな薄味なお話なのにぐいぐい読ませる力が不思議とこの
小説にはあった。
それは、谷根千と呼ばれる、都心でありながら古い町並みや
建物や情緒が息づいている舞台がとっても素敵だから。
坂道があって、朝からあいているお蕎麦屋さんがあって、
神社が通り道にあるから自然に手を合わせてしまう、みたいな
雰囲気がたまらなくよい。私も何度か散歩に行ったことがあるけど
ほんとうに時間の流れ方がちょっと違う気がする・・・
更に、実在の洋菓子店、カフェ、居酒屋などがたくさん店名を
あきらかにしてストーリー上に登場する。つまり、小説でありながら
ハナコとかオズマガジン的なガイドにもなっているというわけ。
あの手の雑誌につきもののキャッチーな写真は無いかわりに、
登場人物たちがおいしそうに飲んだり食べたりする様子がたんねんに
描かれていて、あ、ここ行ってみたい、なんて気持ちになる。

というわけで、物語を読むため、というか、東京の一エリアを主役にした
ロマンティックな旅番組(テレビ東京よりおしゃれで女子向け…個人的に
ヒロインの不倫相手はクラノスケさんで読みましたわ(笑))みたいに
楽しく読めます。

恋愛についても、好きな人とごはんを一緒に食べる回数を重ねると
体を作るものがお互い同じになっていくみたいで嬉しいとか、
ほんと、昔の吉本ばななにあったキラキラした描写で描いてあるので
恋愛中の女子には結構グッとくるフレーズが結構あるし、なかなかよいです。

1作目はちょっと私には、作者の言いたいことが上滑りしすぎてるみたいで
読んでて疲れる部分もあったけど、これはゆったりといいペースで
読めました。

辞書によると、喋々喃々というのは、
「小声で親しげに話し合うさま。また、男女がむつまじく語り合うさま」
だそうです。
by tohko_h | 2009-08-19 01:24 | reading