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「八朔の月~みをつくし料理帖」 高田郁(たかだかおる)

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「八朔の雪 みをつくし料理帖」
高田郁
どんなに好きなものの中にも
「これはちょっと苦手」という
避けがちなジャンルってある。
たとえば私はお酒が好きだけど、
紹興酒は苦手で、どんな美味
しい中華料理を口にするときも、
絶対に選ばない。その紹興酒
にあたるのが、本の世界だと
私の場合は「時代劇」だ。


浅田次郎以外の時代小説って、ほとんど読んでないかも、の勢い。
池波さん藤沢さん、ついでに司馬さんもすみません、って感じ。
考えたら、テレビドラマでも、時代劇ってあんまり見ない。大河ドラマもたいてい
夏前に見なくなってる。

そんな、時代劇と無縁な私が、江戸時代の下町を舞台にしたこの小説に
思いきりハマってしまった。というわけで、自分みたいに「歴史小説って
なんか手が伸びないんだよね」という人こそ、おためし気分でどうぞ。
という感じ。

ストーリーはシンプル。
大坂で生まれた少女・澪は、幼いころに両親を亡くし、天涯孤独の
身の上である。料理人の修行をしていた大店の天満一兆庵は火事で
焼けてしまい、江戸に支店を出しているはずの若旦那を訪ねて
ご僚さん(奥様)と一緒に上京するが、江戸の店はつぶれ、旦那は行方不明。
そこで、澪は、江戸の庶民が簡単なご飯を食べる「つる家」という店で
縁あってはたらくことになる。
味付けの好みが違い、澪の料理はなかなか受け入れられず、それは
そのまま、江戸に馴染めない澪自身のようで、苦しい日々が続く。
しかし、いろいろな出会いを通して、素敵な料理を思いつき、しだいに
つる家は活気づいていき・・・

つまり、料理人の卵の若い娘が、江戸の町でカルチャーギャップや
貧しさに悩みつつも前進して成長していくお話なのです。
作者の高田さんはマンガ原作者としてデビューされていた経験もある
ようで、さすが、情景がうまく浮かぶ地の分といい、未熟な澪に周囲の
大人がかける言葉の重みといい、すごくきちんとしたお話作りをしている。
江戸の人情なんて話、作者が「これいい話でしょ」風に書いちゃうと
だから?って感じになりそうなところを、冷静な第三者視点をきちんと
ストーリー全体に通してくれているので、読んでいてすがすがしいし、
のめりこめる。江戸の風俗についての知識がゼロ、という私が読んでも
理解できるようにそれとなくわかる書き方になっているのもおみごと。

私がおすぎだったら「私に騙されてみなさい!」とでも言って
お勧めしたい1冊です。巻末に澪のお料理の再現用レシピが
ついているのも楽しくて気が利いてます。
by tohko_h | 2009-10-20 17:20 | reading