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「十二単衣を着た悪魔」内館牧子
あまりにも主人公やヒロインがきらびやかすぎると、
その影にまわされる脇役や敵役に肩入れして小説や映画を
味わってしまうことが時々ある。そうすると、ハッピーエンドや
悪役の失脚に胸がモヤモヤしちゃったり。
かの名作「源氏物語」についても、わりとそうだった。紫上や
藤壺みたいに、源氏に最も愛された部類の女君の気持ち
なんて考えたこと、ほとんどなくて。と同時に、地方出身で
軽く見られがちな明石とか、もののけになっちゃう六条御息所
なんかは、その葛藤やプライドの傷んでいく有様にはしみじみ、させられてしまう。
そのポジション、しんどいよねー、私でも正気じゃやってらんないよ、みたいにね。

しかし、あまりにも「あさきゆめみし」などでの描かれ方が「ただの嫉妬深い
いじわるおばさん」って感じだったこともあり、弘徽殿女御についてあれこれ
考えたことは、なかった。弘徽殿女御というのは、光源氏の父・桐壺帝の正妻。
皇子も産んで、そのブレーンとして後宮では並ぶもののないザ・女王様。
ところが、桐壺帝が、「いとやむごとなき際にはあらぬが」(あまり高い身分では
なかったけれど)愛してしまった桐壺更衣という割と格下の恋人に夢中になり
本妻そっちのけで毎晩彼女の部屋ばかり行くようになってしまい、しかも
更衣に第2皇子(源氏)まで生まれてしまい、かなり焦るわけです。

当時は、今みたいに「長男の皇子が次期天皇」という皇室典範的定めはまだなくて、
天皇が気に入った方を東宮(次期天皇となる皇子。ほかの皇子とは違う特別な存在)に
しようと思えばできた。それゆえ「自分の息子を次の天皇に!」という弘徽殿女御&その
一族の野望が危うくなるわけです。お気に入りの恋人の産んだ皇子の方を跡目に
指名されたらどうしたものかと。しかも、その皇子はものすごい美少年で「光君」なんて
呼ばれちゃうほど華があり(当時の貴族社会ではルックスも結構大事だったのかも)
更に頭のできもよいのですから。で、主人公の光源氏の失脚を誰より願っているのが
弘徽殿女御なのです。

なので、光源氏のピンチとなるとイキイキして「ほら見たことか」的リアクションを取る。
そんな出番が多いんですね。素直な読者なら「なんて嫌な女なんだろう! 邪魔者!」
みたいに思って読むわけです、たぶん。

ところが、内館さんは、この「寵愛を格下の女にもっていかれ、自分の息子を東宮に
するために邪魔な源氏排斥に燃える」というバイタリティのある弘徽殿女御の
宮廷での政治家ぶり、頭の良さに惚れ込んで、ついに彼女をヒロインにした小説を
書いちゃったのです。これがすごく面白くて! 私も今「源氏物語の女性キャラで
誰に魅力を感じる?」と聞かれたら、うっかり、弘徽殿女御って言っちゃいそうな勢い。
かなり、クレバーでワイルドな女性なんだぜぇ~。

そんな弘徽殿女御のもとに未来からタイムトリップしてきたのは、就職試験に落ちまくり
二流大学を出てそのあとの人生どうしたものかと行き詰まりがちなフリーアルバイターの
平成を生きる男の子・雷くん。弟は現役で国立大の医学部合格・インターハイ出場経験アリ・
モデルのようなスタイルとルックス、と、平成版光源氏みたいなのに、俺は平凡だなー、
でも弟の大学の合格祝いは言ってあげたいな、と思ってる優しい奴なのですが。ところが
弟の大学合格の日になぜか巨大な火の玉に家の前で襲われて気を失い、気づくと、
「源氏物語」の物語の中にトリップしているのでした。タイムトリップじゃないんですよね、
これって。お話の中に入り込んじゃったんですよね、要は。バイトで「源氏物語の世界展」
の展示の仕事をしてたので、手元にパンフレットを持っていたため、なんとかアドリブで
いろんな人と話をしているうちに、これは、敵役の弘徽殿女御の自宅だとわかる雷。

でも、彼女の家にお世話になって、いろいろ話をしているうちに「悪い人ではなくて、
この時代に生きるには積極的で頭が寄すぎるんだ、この人」と雷くんは気づくのです。
現代社会のキャリアウーマンとしてだったら、かなりいい線行くんじゃないか。
結婚した桐壺帝よりも、その間に成した息子(第一皇子)より、もっとずっと聡明な女性。
それゆえに、自分の立ち位置のややこしさ、実家の思惑なんかも分かりすぎるほど
分かっていて、ほかの姫君キャラより全然面白い女なんだけど、幸せではなさそう。
※キャリアウーマンタイプが天皇家ってやっぱり難しいのかなぁ

弘徽殿女御に仕える身となり、なんと、雷は、陰陽師待遇でこの時代の一員となります。
数日のタイムスリップではなく、20歳そこそこだった彼が、中年の男性になるまで、
何十年もこの世界で生きて、貴族たちの喜怒哀楽を目にする、というこの設定が
絶妙でした。主人公の雷も、ただの現代人の視点を持つ者としてではなく「源氏物語」の
当事者の一員として色々な登場人物と会い、話をして、関わっていくのです。

雷の目を通してみると、源氏物語のキャラクターたちは、今までのイメージと全然
ちがってて、でもそれぞれ魅力的なのです。雷は、できの良い弟を持った長男、として
第一皇子に肩入れして、源氏に対しては最初は複雑な感情を抱くのですが、彼とも
不思議な絆が生まれていくのが面白いところです。

好きな小説や映画の登場人物と恋愛したり友達になったりしてみたいな、という妄想を
したことがある人は少なくないと思いますが、この小説は、その「源氏物語バージョン」を
満喫できます。惟光(源氏の従者)と酒を飲んだり、弘徽殿女御の本音にびっくりしたり、
そんな、等身大の源氏物語、文字通り、寝食忘れて一気読みしちゃいました。

ちなみに私、主人公の光源氏って、普通のイケメンキャラだしなぁ、とあまり好きでは
なかったんですが、内館さんが描く源氏は、なんとも愛嬌があって魅力的で、ちょっと
好きかも…と思っちゃいました。

とにかく「あさきゆめみし」程度の源氏知識があれば、ものすごく面白く読める元気の出る
エンタテイメント小説です。
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by tohko_h | 2012-05-18 23:32 | reading

「青い壺」有吉佐和子

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「青い壺」 有吉佐和子
青いツボ、と聞いて、北島マヤの一人芝居!と思って
しまったあなたは、ガラスの仮面ファンですね(私もだ)?
この小説は、あの漫画に出てくるお芝居とは関係ないです。
でも、たったひとつの青い壺をめぐる話だけで読み応えのある
人間ドラマが連続して描かれる濃厚さは読む価値アリです!
ある陶芸家が美しく焼けた青い壺が、人の手から人の手に、時には贈答品として、
時には売買され、日本中、そしてついには海外にまでわたっていきます。
ある時は、嫁姑問題でドロドロしたおうちに、ある夜は戦中派と戦後派が酔って
喧嘩してしまう居酒屋に、またある時はストイックな修道女の手に。老若男女、
様々な、壺を手にした人の物語が、紙芝居のように展開されていきます。
それもタッチが違う紙芝居。漫画や絵本で1枚ずつ、1コマずつタッチが変わったら
たまったものじゃないですが、この小説の場合、図々しい中年女性から若く潔癖な
娘、芸術家肌の陶芸家に、戦後を生きる医師などなど、さまざまな貌の人たちが
出てくるので、そのメリハリっぷりが清々しいのです。
1本1本が独立した短編として完成してスッと立って成立してるんだけど、青い壺を
リレーのバトンのように回していくことによって1つの流れになっているという。
個人的に印象に残ったのは、女学校時代の同級生たちが還暦を過ぎて泊りがけで
同窓会旅行をする話。仕切り屋、仕切り屋が気に入らなくて影で不満を漏らす人、
仕切り屋に反旗を翻して単独行動に出るもの、などなど、女性の多人数の集団行動って
大人になっても、いや、大人になればなるほど面倒なんじゃないの?みたいな感じ。
母校の栄養士になった女性が、子供たちに給食で苦手な野菜を食べさせるために
頑張るんだけど調子に乗っちゃって…みたいな話も、すごく共感しました。

というわけで、短篇集を読んでるつもりでも、壺を追いかける長編小説として読んでも
どっちにしろ、お腹いっぱい!な読み応えの1冊です。こういうのドラマにならないかなー。
1話ごとに役者さん変わるから、拘束時間も短くて済むし、端役タイプの人がすごく
美味しい場面があったり、面白いと思うんだよね。

今まで、物書きの佐和子さんというと私の書棚には阿川佐和子さんしかなかったけど、
有吉文学もかなり面白いです。今度は何を読もうかなー。
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by tohko_h | 2012-05-16 08:46 | reading

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先日、沢尻エリカ主演のドラマを観たんだけど
「すごく長くて人がいっぱい出てくる話を無理に2時間半に
ダイジェストにされても困るよー」という印象だったので、
原作読んでみることに。
富小路公子という女実業家に関わった様々な男や女が、
彼女について語るんだけど、ある人は悪魔のように悪い
女だ、といい、とても可愛くて純粋だったという人もいて
「同じ人の話してるんだよね?この人たち」と混乱が読めば
読むほど深まるという。推理小説じゃないけど、非常に構成が凝っていて、
なんともミステリアスな小説です。
1978年という大昔に書かれた小説であるにも関わらず、古いとか読みにくいという
ことは全くなく、公子を語る人たちのしゃべり言葉も「こういうこという人居そう!」という
ほど自然で、するする読めます。
1章ごとに語り手が変わり、それぞれの章はさほど長くないので「今日は夜遅いから
1章だけ読んで寝よう」とか思って手にするんだけど、気づくと「あと1章だけ読む~」
みたいな状態になって、まる2日で読んでしまいました。

公子は結構嘘をつきます。でも、多分、自分で嘘をつくわけじゃなくて、その場では
その場の真実として語ってるんだと思います。自分のついた嘘を誰よりも信じる女。
多くの男たちが彼女が一番惚れてたのは俺だと信じたのも、逢ってるときは目の前の男に
本気で集中していたからじゃないかと。

ルックスの印象さえまちまちです。色が白いというのは会った人みんなが証言しますが、
ひと目でおお!って思うくらい綺麗だったという人も言えば、美人じゃなかったという人も
いますし、とにかく男好きするタイプだったという人もいました。そのまちまちな感じ、
輪郭の不安定さが公子の魅力だったんでしょう。

色が白くてとりあえずくびれとバストはそれなりにあったっぽい公子とは全然外見は
ちがいますが、ある意味、先日捕まった木嶋香苗容疑者も、そういう「自分のついた
嘘を誰よりも当人が一番信じてるのですごい力を発揮する人物」だったんじゃないかな、
なんて思っちゃいました。

そういう意味で、嘘が苦手科目な女優・沢尻エリカには結構合ってない役かなーって気も
するんだけど、清楚な顔とふてぶてしい顔が矛盾なく同居してるあの存在感は、
わりに似合ってる気が小説を読んだあとではしました。

昨今一番部数が出てる悪女小説って、たぶん、東野圭吾の「白夜行」だと思うんだけど、
あのヒロインの切なさ脆さと比べると、公子は、女性作家がノリノリで(すごい勢いが
ある筆致です)書いただけあって、どこかしたたかで、人間としての滑稽味もあります。
ロマンチックじゃない、でも気になるタイプの悪女・公子の人生を1冊分読んだあとは、
自分も証言者たちのひとりになりきって「私はこう思うなー」と、ちょっと語りたくなっちゃう、
そんな小説でした。
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by tohko_h | 2012-05-15 15:22 | reading

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「ナナマルサンバツ」 杉基イクラ
現在1~3巻まで発売中のコミックス「ナナマルサンバツ」。
高校でクイズ研究会に入った男の子の部活漫画です。
現在、競技かるた部を舞台にした「ちはやふる」が大ヒット
してますが、競技クイズの世界も面白い! 高校生なので
早押しクイズのためのボタンが高くて買えない、みたいな
細かい描写も面白いし、かるた同様「ここのまで聞けば
問題の途中でも押せるポイント」があったり、知識の暗記
だけでは勝てない熱い駆け引きが展開されるんです。
スポーツ漫画もいいけど、スポーティーに文化的な部活動に燃える高校生たちのお話も
かなり、エキサイティング!今、続きがかなり気になる漫画の、ひとつです。
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by tohko_h | 2012-05-10 13:21 | reading

「雪と珊瑚と」梨木香歩

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「雪と珊瑚と」梨木香歩
21歳のシングルマザー・珊瑚は、幼い娘の雪とふたり、
食べていくためにパン屋でアルバイトをしていた。が、
間もなく閉店すると聞かされ、またあるきっかけを得て、
カフェをOPENすることを決意する。雪を預かってくれる
くららさん、という女性や友達と相談をしながら…。
というわけで、食べ物小説としては嫌味がなくてよいお話では
あるんだけど、物件を借りたり野菜の仕入れ先を決めたり、
いろいろなことがかなりトントン拍子に進んでいく展開が続き、
そんなにうまくいくかなーと、辛酸なめるほどじゃないけど
世の中思い通りにいかないなぁという経験を何度かしている大人が読むと、
ファンタジーにしてもなんだか…と、ややビミョーかも。
ヒロインを嫌うバイト先の同僚の気持ちもちょっとはわかるなーという(笑)。
「西の魔女が死んだ」のファンタジックな感じはさじ加減がちょうどよかったんだけど、
この小説はかなり「あまーい」トーンです。
心が疲れてしまいそうなときはいいのかも、その優しいムードが。
でも本当に疲れているときに読むと、もっとぐったりするかも。
かなり読むタイミングと読者の置かれてる状況によって感想変わりそうなタイプの
小説です。
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by tohko_h | 2012-05-09 13:00 | reading

「マウス」村田沙耶香

しばらく、本を読むこと自体をやめようかな、と思うほどハズレな小説ばかり
引き当ててしまい、ファッション雑誌と三浦しをんのエッセイばかり読んで
暮らしてましたが、久々に心に刺さってきたものが何冊かあってよかった、
というわけで本ネタでございます。
「つまらない本が嫌いでも…ど、読書は嫌いにならないでください」と、演説
されたような1冊(この、前田敦子ちゃんの演説ネタもそろそろ古いかしら(笑))。

さて、というわけで、村田沙耶香の「マウス」です。最近だと、自分の性と折り合いが
つかない女性たちを描いた「ハコブネ」で話題になってる作家さんですね。
私は、あまり自分のなかにそういうテーマがないので(むしろ、せっかく女性に生まれた
のに、なんで女らしくないんだろう、と、そっちで悩むので、自分は男子かも?と悩んで
乳を平らにするブラジャーをつけるヒロインの気持ちがあまりわからなかったのでした)
そちらはささらなかったのですが。

パッとしない公立小学校の女子生徒として育った私には、キタキタキター(この文章の
「パッとしない」は、どこにかかるでしょう。①公立小学校②女子生徒③私…正解、
たぶんすべてに)という感じの、高学年の女子って大変ね小説の傑作が「マウス」です。

「マウス」村田沙耶香
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場面は小学校5年の1学期の始業式から。
主人公の田中律は、大人しめの女の子。
去年まで親しかった子たちとはクラスが離れ
「早く自分に似た子を探して組まないと」と焦る。
この必死な感覚を大人になっても覚えてるところが、
やっぱり作家の記憶力って偉大だな、と、一気に
物語に引き込まれていった。物語のメインは、
クラスに溶け込めないやせっぽちで背の高い瀬里奈
という女の子と律の交流なんだけど、その背景にあるクラスの女子の人間模様の
描きこまれ方が、小学校高学年思春期あるある、みたいな感じで生々しかった。

地味な律は、クラスの女子を見渡していて「よそのクラスから見てもあそこのグループが
一番だと分かる」メジャー組、とか、「同じくらい着飾ってもメジャーグループより
劣るグループ」とか「自分たちは大人しいグループで済んでるけど
あっちの大人しいグループは男子にキモい、と思われている。大人しい、と、キモい、
の差は、メジャーな人から話しかけられたときの反応に卑屈さが混じってるかどうか
なので緊張する」とか、もうねー、11歳の子が考えそうなことがネチネチ描かれて
いるのです。メジャーグループの子だと先生とタメ口率が高いとか、あるあるって感じ。
最大の秘密(心から信頼されないと打ち明けてもらえない)が「好きな男子のイニシャル」
とかね、わー、あったあった、と、悪い意味で記憶の扉がバンバン開きます(笑)。

そうそう、こういう粘り気、あった。
自分が女子として価値があるかどうかが気になる年代で、そこに、初ブラジャーとか初潮とか
初恋(幼稚園時代とかと違い、そろそろ、付き合うということが視野に入ってくる?)とか、
面倒なハツモノがどっとおしよせる時期なんですよ。その面倒さがつらくて息苦しくて、
コドモのときとは異質の、大人の私たちが持つのに近い(そして未熟さゆえにあやうい)
残酷さにスイッチが入ってしまうんだな、と今ならわかる。

しかし、当時はつらかったです。
どちらかというと、そういう残酷さをぶつけられたことの方が多かったいじめられがちの
ローティーン時代を送ってたもので。
私の場合、こんなところで謙遜してもしょうがないから書くけど、成績がいつもクラストップ。
で、それゆえに「成績がよくても羨ましくないあの女」とは思われたくないわけです。女子には
成績なんかより重要なことがあるって、もう7,8歳からみんな知ってるから(笑)。でも、
親の趣味でいつも変なヘアスタイルだったし、服も小学校5年くらいまで興味無かったし、
でも第二次性徴は早めで老け顔。イケてる小学生女子を気取るには色々足りなくて、でも
テストとかあると目立っちゃって、その分、運動会で足が遅いとか絵がヘタとか、
人目につくアラはより悪目立ちするという。
「成績が良いのでクラスで名前を覚えられるのは早いし時々委員とかもやるけど、メジャーな
人気者とは全く違う人」という位置でいられればまだましなほうって感じで…小学校5年から
中学くらいまでは、いろいろ生きにくいタイプの子供でした。

なので、そのころのことを思い出しつつ、うへー、やだー、そうそう、あったあった、とか
ひとりで突っ込み祭りしつつあっという間に読んでしまいました。

もちろんそういう「イタかったあのころ」を振り返りつつ大人が読むのもいいと思うんだけど
現役思春期で、そういう「教室での位置づけが怖くてたまらない子」にも薦めたい1冊です。
小説の後半で、主人公たちがみんな10歳くらい年を取って大学生や社会人になってる
パートのお話になるんだけど、小学校の時は「あのグループはメジャーでドキドキ」みたいに
思っていた人と普通にヒロインもしゃべれるようになってるんです。そうなんだよ、そんな
ものなんだよ。教室の壁と天井とっぱらったらみんな同じ子供なんだよ。みたいな
大人目線のエールにも思えたりして、ちょっとホッとできるかも。
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by tohko_h | 2012-04-25 10:55 | reading

a0079948_14481187.jpg「俺物語!!」①(集英社・マーガレットコミックス)
久々に女の子向けマンガにハマってしまいそうな予感!
カバーイラストの中心にいる、顔も体も四角張っていて
思わず、君は少女マンガ界の住人なのかい?と問いつめ
たくなる彼・剛田猛男(高校1年生)が主人公なんです。
彼は、いかつい外見と弱い人を助ける強い心と腕っ節
の持ち主の男の中の男。好きになった女の子はいつも、
イケメンの親友・砂川を好きになってしまい片思い専門
の正しい硬派くん。ある日、他校の女子・大和さんを
チカンから救ったことをきっかけに仲良くなる。きっと
彼女も砂川(その場に一緒にいた)が好きだろう、僕は
隣で一緒に会えれば楽しいしいいや、とあきらめモード。
しかし大和さんの真意は・・・


「先生!」や「高校デビュー!」そして現在は吹奏楽部を舞台にした「青空エール」を
連載中の、すがすがしい青春モノの第一人者・河原和音先生。そのすがすがしくまっすぐな
作風ド真ん中、で、硬派な男の子が主人公ってことで、実に気持ちよく読めます。そして
漫画を描いているのは、テレビドラマにもなった「ヤスコとケンジ」でおなじみのアルコ先生。
女の子は可愛くて、画面全体が現代的な華のある漫画を描かれる方で、この作品のいかつい
主人公の剛田くんもすごくキュートにある意味、超個性的な男前として登場しています。
お互いの作風がすごくきれいにかみ合って、コラボを提案した編集さんのセンスの良さにも
脱帽です。ブラボーです。

ふつう「イケメンの親友の方がモテて当然だ。俺は応援役でいい」なんて主人公、ヒクツで
読んでていやになりそうなところなんですが、剛田くんの場合は、本当に心の底から、
砂田くん(親友)と、大和さん(出会った女の子)をいい人たちだ、どっちもハッピーに楽しく
なってほしい、と思ってる言動なので、そういううそくささ、暗さがないんですね。そんな風に
剛田くんにだいじに、だいじに思われる砂田くんも大和さんも本当に可愛くて良い人たち。
読者は、そんな一生懸命友達思いの剛田くんの無私の優しさが「ほんもの」ってところに
キュンとさせられてしまうことでしょう。

イヤな人が出てこない、マンガのお約束てんこもり(チカンから助けてくれる男らしい彼、
イケメンのライバル、ヒロインの趣味はお菓子作り)なのに凡庸にならないテンション、
ある意味、古き良き時代の少女マンガ(ただし主人公は男)のような心地よい1冊です。
いっぱい笑いつつ「あーでも、こういう友達がいて、こういう恋愛できたら幸せだよね」と
シンプルに友情や恋愛っていいね、と思える可愛い漫画。いま、一番人にお勧めしたい
1冊です。
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by tohko_h | 2012-04-23 14:51 | reading

毎年「審査員の書店員さんとはシュミがどうも違うんだなあ、ううむ」と思っていたので
私が大好きな三浦しをんさんが本屋大賞を今年受賞するとは思わなかったので
ビックリ&嬉しかったです。

私なんて発売日に買って、しかもイベントにも行ってサイン本も持ってるもんね!
わーいわーい。

みたいなことをあちこちで言い散らかしてたら、私の行きつけの某店には三浦さんも
お客としていらっしゃってることをひょんなところから知りました。
ちょっと、いや、かなり感動でございます。

ちなみに三浦さんは伊勢丹もよく行かれてるみたいだし(エッセイで「欲望百貨店」と
書いておられます)、なんか、勝手に親しみを感じちゃいます。出身大学も一緒だし!

というわけで、次の三浦さんの新刊をめちゃめちゃ楽しみにしつつ、過去の作品を
読み返している今日このごろです。文章に無駄が無くて、こういう風にものを
書けたら楽しいだろうな、とつくづく思います。
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by tohko_h | 2012-04-17 12:39 | reading

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美容整形は当たり前。
ブサイク→美男美女、というのは当然で、性別も年齢も自由自在に
ワンコインからお直しokな、近未来の、どこかの世界のお話。
連作短編集。

凄く美しい(あるいは醜い)主人公の生きづらさを描いた小説や、美容整形で外見を
変えて人生を変える、みたいな話って、小説でもマンガでも時々、ある。
もうすぐ公開されるエリカ様主演の「ヘルタースケルター」(岡崎京子の漫画が原作)も
全身整形で美人になったモデルがヒロインだったっけな。
佐藤隆太主演の今クールのドラマも、美容クリニックが舞台になっている。

こういう話って大概「美人もストーカーとか変な人につきまとわれたり同性にしっと
されて大変なんだよ」という、美人も楽じゃない理論に持って行ってたり、あるいは
「ブスでも内面のよさや頭の良さで幸せになれる」という、まあそういうケースもあるけど
人並みの容姿がないと成功したらしたで「でもブスじゃん」で終わりだよな、という
嘘っぽい感じの白々しい話だったりすることが多い。できの悪いファンタジーだ。

これは、なんか、そういうのとは、違うみたい。
整形してきれいになることは全員できるけど、整形してきれいな人がみんな幸福じゃない、
という(ブサイクよりはマシかもですが)、という感じ。

意外と、容姿が人間の人生に与える幸福や不幸って、いろいろなタイプの幸不幸の
中の一部分にすぎないのかも、みたいに、割と客観的になれるというか。
(もちろん美貌ゆえに大金を稼ぐタレントやモデル、とかもいるわけだけど)

で、美男美女が普通、のこの世界には、整形をしていないもって生まれた天然の
バランスが悪い顔の人が働くキャバクラみたいなお店もあるんですよ。逆に、
道を歩くのが美男美女だらけだったら、そういうお店が流行るような気もする…

本当にまとめられなくてアレなんだけど、タイトルの「ビューティフルピープル」と
「パーフェクトワールド」の間の中黒は「イコール」ではないな、って思いました。
「NOT パーフェクトワールド」かもしれないし「一応建前上はパーフェクトワールド」
かもしれない。
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by tohko_h | 2012-04-08 16:29 | reading

「学問」山田詠美

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「学問」 山田詠美
静岡県の田舎町に東京から転校してきたフトミこと仁美は、
美男子でもないのにカリスマ性と強い心を持つ心太、
裕福な医者の息子で、とにかく食べるの大好き少年の無量、
授業中でもいつでも眠りたくなってしまう千穂、の3人と出会う。
そして、彼らは裏山の秘密基地に集う特別な仲間になった。
そこから始まる4人の小学校から思春期の完成までを描いた
青春というより、むしろ思春期小説と呼ぶべき傑作。



と書いても、面白さが伝わらないのがもどかしい。あらすじだけだと、地方都市で
4人の幼なじみたちが成長していく小説、で終わってしまうのだもの。
あらすじで判断して「地味そうだなー」と、この本をスルーする人は多いだろう。
私も、人がバンバン死んで謎がどんどん深まってどんでん返し、みたいな
ミステリーとか、イタタタと共感してしまう働く人を主役にした小説とか、割と
「いろんな事が起こって大変そうなのが最後にはどうにかなる話」みたいな
分かりやすい小説を普段は好むので、うっかりパスしてしまうところだった。
恋愛小説じゃない山田詠美なんて、とか思っちゃってね。
でも、ヒマつぶしに文庫だしーと買ってよかったです、ほんとうに。
「学問」というタイトルだけど、彼らが学校の勉強に燃える話ではもちろん無くて、
生きて行く上での心と体が覚えるべき事を学んでいくプロセス、みたいな意味
なんじゃないのかな、と読み終えた今は思う。滋味あふれる良いタイトルだ。
そして読者の心にも何か凄く栄養になるような感じがする。

学校でいろいろなタイプの人と接したり、親が、親ではなくて生身の男女に見えたり
エゴを持つ人間として見えたり、という子供の目線で描かれた小説世界。
子供のころは怖いことがいっぱいあったな、ということを読んでいて思い出す。
クラス替えも怖い。
親のセックスをうっかり見てしまうのも怖い(父が母をいじめている、と思い、両親の
不仲や離婚を想像して怯える子供心が可笑しくも切ない)。
友達より早く大人になるのも、遅れるのも同じだけ怖い。
大人になった今の自分から見たら「どれも、当たり前のこと」なんだけど、リアルタイムでは
自分もビビったなーみたいな懐かし苦笑いの連続である。

そして、男子の性欲の目覚めをカラっと書いた素晴らしい青春小説はいっぱいあるのに
なんとなく「恋人ができてキスされて寝て…」みたいな流れとしてしか描かれない女子の
性について、もっと能動的に描かれているのも、さすが詠美さん!である。
仁美は、その気持ちよさがセックスにつながってると知らぬまま、自分の体に快楽を
与える方法を学習し、やがて、文学作品のラブシーンや男子の体のパーツをイメージ
することがその気持ちよさに加速をつけてくれることを知る。小太りな少女が性欲に
目覚めて一人であれこれする、なんて、普通に考えたらちょっとグロいかなーってところを
山田詠美の品格あふれる文章でスパッと書かれると、いいもの読んだな~と素直に
受け入れられてしまう。もう魔法の域だ。

そんな仁美は、性欲。
食欲少年の無量は、食欲。
よく眠る千穂は、睡眠欲。
人間の三大欲望をそれぞれフルに楽しみ、学んだ三人と、彼らにとってかけがえのない
愛すべき友人の心太(彼は、厳しい家庭環境で育ったので、心を大人にする、という
「学問」の優等生なのかも)の成長と人生をじっくり見守るような、そんな濃い時間を過ごせる
1冊だった。

大人の人には無条件でお勧めしたい本ですが。
リアルタイムの思春期の人には、どうなんだろう。
大人になる「学問」の優秀な参考書になりえるかもしれないけれど、やっぱりそれは
自分で経験値上げていくのがつらくも大切なところだしなぁ、とも思う。

ちなみに、心と体の成長に翻弄される地方都市の少女を描いた姫野カオルコの
「ツ・イ・ラ・ク」と一緒にお勧めしたい感じもしました。
どっちもせつなくていい本です。
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by tohko_h | 2012-04-04 16:05 | reading