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「光媒の花」 道尾秀介

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「光媒の花」 道尾秀介
胸を痛めている人がいる。
犯してしまった罪に、罪びとを止められず臆病で
いたことに、親の死に、初恋の無残な結末に、
両親の別離に、そして家族の構成が変わることに…
その痛みを癒すことなく、苦しみながらも日々を
生きるしかない。そんな彼らを光のほうへ導くように
蝶が飛ぶ…まるで何かの使者のように。


初めて読みました、道尾作品。
最近、直木賞候補に2度ほどなったりして、旬の作家さんなのねー
という印象でした。この「旬の作家さん」というのが時にはクセモノ。
雑誌の書評にいっぱい載ってたり、いろいろな人が各メディアで
推薦し、書店では目立つポップが立てられている…そういう「売れて
欲しい」という業界全体のプッシュを受けてる作家さんっていますよね。
「今売らなくていつ売る」的勢いで仕掛けてくる感じと言うか。

それが、よい作品を書く作家さんなので広く読まれて欲しい、
という健全な「推し」の場合もあるし、作品のクオリティにかなりムラが
あったりあれ?って感じなんだけど、やたら業界の人たちが「いい」って
騒いでて、読者だましてなーい?という感じの場合もあるんだけど。

道尾氏の場合は、間違いなく、よい作家さんであるがゆえのプッシュだと
確信いたしました。なので「いいですよー」と言われたら「そうですか!」
と手に取って大丈夫です。

今までは難しそうなミステリーっぽい作品が多そうだったので手に
取らなかったのですが、今回は、人の心に巣食う陰と、そこに光が
差し込む瞬間を描ききった連作短編集、ということで、読んでみたら
もう夢中でした。楽しい避暑→避暑地の初恋→悲劇的結末、とか
兄妹の楽しい遊び→あってはならない事件→犯人への報復、とか
夫婦の確執→傷つく子供→身体にも影響が、とか、誰にでも
起こりえるささやかなエピソードから暗いほうへ展開していくパターンの
話が多いのに、最後まで読むと「世界は光であふれていて、よい方向に
進めるものだ」的性善説モードで読み終えられる不思議な感じ。

そして文章が素晴らしい。無駄のない地の文のシャープさ。それで
ありながら、どこか詩的なムードもあって、よい意味でつっかえポイントが
あります。すらすら読める小説もとても好きですが、時々立ち止まって
読み返したくなるフレーズがある作品というのもよいものです。

「どうして人は、思い出したくないことばかりはっきりと憶えているくせに、
大切なことはみんな忘れてしまうのか」
ある章で、主人公がつぶやくモノローグ。こういう本質を掬い上げて
これ以上ないっていう絶妙なシーンで読ませてくれる。
よい作家さんとの出会いができました!

定価1470円(税込)→体感価格1350円(≒92%)
前半がちょっとかったるかったので(最初の章の導入部)もしここを
立ち読みしてたら読まなかったかも。的な感じで少し定価割れくらいで。
by tohko_h | 2010-05-03 00:37 | reading