「雨心中」 唯川恵

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「雨心中」 唯川恵
恋愛小説の旗主・唯川恵さんですが、
この小説は、恋愛色が薄い。もっと、
自分では抗えないような運命とか、
負のほうへ引き寄せられていく人間の
愚かさとか、シリアスかつ普遍的な
テーマを描こうとしている気迫が
読者にも伝わってきて、凄みを感じた。


親の愛に恵まれず施設で姉と弟のように育った芳子と周也。
周也と穏やかに暮らすためなら仕事を選ばない芳子と、
上司の嫌味くらいですぐにやめてしまういまどきのダメな若者風周也。
最初は、この「愚弟」っぷりにイライラした。だけど、どうやら、
芳子は、彼が失敗したり愚かな真似をすると「私が何とかしないと」
と、生きる張りを感じて、背筋がピッと伸びるみたいだ。そして彼に
好きな女の子ができると、幸せになるように、そしていつかその間に
できた子を抱きしめることを夢見ると同時に、周也が人のものになって
しまうことをどこかで恐れているようにも見える。

私はだめんずな傾向はまったく無いので(自分がダメ人間なので、逆に
ちゃんとした人がそばにいてほしいと切実に願うほう(笑))芳子の
自己犠牲的な周也へのいたわりに読んでいてところどころイライラしたけれど
たぶん、彼女にとっての幸福はそれしかないんだな、と思った。
納得はいかないけど、そういうものか、というような。

そして、ふたりが仕事場や偶然に出会う男女も、ひとくせもふたくせも
ある人たちばかりで、世の中のダークな部分を見せてくれる。
少女小説の延長線上で恋愛を描いている、という印象があった唯川さんだけど
まだまだ描きたいものがたくさんあるんだろうな、とそういうクセのある脇役描写を
見ていると、ちょっと楽しみだ。

定価1680円→実感価格945円(56%)
読み応えはあったけど、何度もリピート読みするかどうかはちょっと分からない。
文庫化を待っても(今読むべき本、という切羽詰ったテーマではないので)
いいような気がする。
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by tohko_h | 2010-06-20 15:52 | reading