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「小さいおうち」 中島京子

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「小さいおうち」 中島京子
※第143回直木賞受賞作
昭和6年。山形から上京してからずっと、
タキは女中奉公人生を送ってきた。中でも
一番忘れがたかった家といえば、赤い
三角屋根の家で、少女のように美しく
無邪気な奥様と愛らしい坊ちゃま、
そして頼もしい旦那様と過ごしたあの日々…
老女となったタキは、あの家の思い出を
ノートにつけ始める。だけど、あの苦しい1日の
ことは書けるだろうか。


太平洋戦争をはさんで長いこと勤め上げた家のことを書いた
老女の手記として物語はすすんでいく。ところどころ、彼女の
親戚の若い男の子がそれを読んで「戦時中ってこんなにのんき
だったの?」みたいに呆れたりしている。そんな他愛もない話。
だが、その他愛もなさがよい。
東京の、女中を雇う程度に経済的に余裕のある家庭の生活が
生き生きと描かれていて、食べ物とか洋服や着物の描写を小説で
楽しむ、ということを久々に堪能した(昔は「赤毛のアン」も「若草物語」も
そういう生活のディテールが楽しくて繰り返して読んでいたものだ)。
そこに忍び寄る戦争の影、軍靴の音。
節約料理を工夫するタキは、なんだか楽しそうですらある。
しかし、別れのときは近づいて…

個人的に、このキャラクターのこのセリフが、とか、あの場面がよかった、
みたいな強く記憶に残る小説ではなかったんだけど、そういうディテールが
よくて、タキが工夫して焼いたパンやチラシ寿司などのごちそう、
奥様の美しい着物やワンピースなどのファッションの描写が楽しくて
「戦前ってこんな風な人たちが東京で楽しく生活してたんだ」という、
野次馬根性はかなり、満たされる。

後半のせつなくたたみかける急展開は、ちょっとキレイにまとまりすぎて
それまでは実際の老女が話してるみたいなリアリティがあったのに、
いきなり「作り話」っぽくなっちゃって、自分としては残念な気がした。


1660円(税込)→体感価格840円(50%)
文庫化したら読んでみてください。別に受賞したから今読むべしって本では
ないと思うので。極端にいうと、10年後に読んでも差し支えないというか。
古くはならないと思います。定番的に残ってく作品じゃないかな。
by tohko_h | 2010-07-17 09:24 | reading