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「悪の教典」 貴志 祐介

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「悪の教典」(上)(下) 貴志 祐介
蓮実は、高校の英語教師。生徒たちからは
ハスミンと呼ばれる人気者で、教頭や同僚
たちからも頼りにされている。カンニング、
モンスターペアレンツなどの学校の諸問題の
解決もスマートにやってのける賢さが
評価されているのだ。しかし、そんな人望の
厚い蓮実には、裏の顔があった・・・


というわけで、人気英語教師・蓮実の恐ろしい素顔が徐々に暴かれていくお話です。
学内のカウンセラー以上に人間心理に長け、それを利用し、自分のやりたいことを
妨げる人は容赦なく退けていく蓮実。その、自分のために邪魔な存在を容赦なく
取り除いていく人の話、というと、東野圭吾の「白夜行」なんかもそうですが、
あちらが終始、不幸な幼年時代を送った結果としてそういう悪の道を選んでいるのに
たいして、ハスミンは、もう、爽やかなくらい自分本位で、パンがなければパン屋を襲う、
みたいにZ(たとえです)、目的と行動が直線的な人なんですね。人の気持ちが心理学的には
分かっているけど、思いやり、とか、他者の立場を想像する、という、普通の対人関係に
おける共感能力がゼロなため、そのへん、容赦ないです。家の近くを飛んでる邪魔な
カラスも、校内の面倒な同僚教師も同じように「いると邪魔なので消す」という
シンプルな動機で手をかけちゃうんです・・・そのへんが子供か?ってくらい
単純バカすぎる!そこまでシンプルでぶれがなかったので、かえって
えぐい展開になっても面白く読んでいられたんですが・・・

上巻だと、用意周到に邪魔者を消したり他人を利用したり、と、とても丁寧に
重箱の隅までぬかりありません、みたいな手口だったハスミンが、下巻になると
「ええい、もう埒があかないのでここは一気に行くぜ」と、すごく雑になるんですよ、
邪魔ものへの攻撃が。派手な戦闘シーンだから、作者としては後半のほうが
メインで描きたかった部分なんだろうけど、前半の緻密な悪党ぶりと比べて
手抜き(作家もハスミン本人も)じゃないの?って感じが否めませんでした。

ただ、読み始めて、途中で何度かトイレに行くのも「あああー」って感じの
ページをめくる手が止まらない系のエンタテイメント本ではあるので、まあ、
文庫になったときにはぜひ(別に今読む必然性はさほどないかな、と)。
あとあじが悪いので、旅先とかバカンス本にはお勧めしませんが、暇つぶしと
してはおもしろいのではないでしょうか。

3600円(上下巻合計)→実感価格1800円
分厚い文庫で2冊になったら、これくらいの値段かな、と。共感能力に
乏しく、感情そのものもほとんどないっていう文中の説明の割に
結構すぐにキレたり、ハスミン、十分人間くさく描かれていたので、
どっちやねん!って感じはありました。ほんとに冷血で感情が動かない
怖い人だったら、もっと不気味で面白かったはずだけど、人間くさく
描くことによって「ここまでやらないけど、こういう感じの考え方をしてる
人っているかも」と、こんな主人公なのになんか親しみに近いものを一瞬
感じさせられちゃうあたりが、面白く読めた理由かも。
by tohko_h | 2010-10-05 13:44 | reading