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「告解者」 大門剛明

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「告解」という言葉、聞きなれないという
人が多いと思います。キリスト教に於いて
洗礼の後におかした罪を司祭に打ち明ける
行為のことをいうようですが、教派によって
ちがう言葉で呼ばれていたり位置づけが
違ったり…するそうです。一般人的には、
ドラマや映画で見かける、薄暗い教会で
小窓ごしに罪の告白を行っているアレ、
という認識なんじゃないでしょうか。


この物語は、犯罪者の更生というテーマで書かれています。
金沢にある更生保護施設で働く女性・さくらが主人公。
彼女の働く施設は、刑務所から出てきた人が社会復帰できるよう、
職探しを手伝ったり、その後社会に溶け込めているかフォローする場所。
それゆえに、近隣の人たちからは立ち退いてほしいなどと言われて
受け入れられていないのが現実でもあります(私も近所にそういう
場所ができると知ったら反対したくなると思うので気持ちは分かる)。
そんな施設に、今まで受け入れたことのなかったような(それまでは
軽犯罪の人が多かった)罪を犯した人を迎えることが決まりました。
彼は、23年前にふたり人を殺したものの、獄中での態度から「更生した」と
認められ塀の外へ出てきたのです。
無期懲役→仮釈放となった彼…久保島は荒れ気味の人も多い
施設の人々の中で、圧倒的に理性的で落ち着いており、そしてまた、
知的で穏やかな人間。「この人が殺人犯だなんて」と、さくらは接しながら
不思議に思い、やがて、彼のことをもっと知りたいと思うように…

そのころ、施設の近くで殺人事件が起こります。犯人はこの中に
いるのでは?と刑事の疑いのまなざしが向けられ、さくらは入寮者たちを
信じたいと願い、葛藤しますが・・・

犯罪者の更生施設という馴染みの無い場所を中心に繰り広げられる
サスペンス&人間ドラマです。メインどころの久保島の過去などで
ぐいぐいストーリーをひっぱり、と同時に、厳しい現実(60歳を過ぎて
就職先のないもと窃盗犯が死にたくなってしまったり)も随所に
盛りこまれ…後半は少しセンチメンタルになってしまいましたが(恋愛に
依った展開になったため)最後まで緊張感を以て読みました。
最後に教会でさくらが迎えるラストシーンは美しいです。
また、最初はステレオタイプな敵役なのかな?と思ってた刑事もまた
心の痛みを抱え、厳しい現実をかかえ、また、闘っていたのだな、と
次第にわかってくる展開がグッときました。スペシャルドラマなどにも
合ってる題材だと思います(金沢が舞台で、おいしい料理まで出てきます)。

定価1680円→実感価格1680円
ハードカバーだとしてもちょっと高いのは事実ですが、じっくり読ませる作品なので
充実した読書の時間が過ごせたということで。
by tohko_h | 2010-10-20 16:31 | reading