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角田光代「ツリーハウス」

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「ツリーハウス」 角田光代
新宿エリアにある古びた中華料理店・
翡翠飯店。満州から引き揚げてきて
この店を開いた祖父母、そしてその
子どもたち、そして孫…3代東京で
暮らしながらも、根無し草のように
それぞれが「とにかくどこかへ」と
逃げるような生き方をしてきた。そして
祖父が死に、祖母を連れて息子と
孫が、満州に旅立つ。そこで祖母が
探し始めたものは・・・


角田光代は、個人の歴史を書くのがうまい作家だとは思う(「八日目の蝉」とか
私は好きじゃないけど「対岸の彼女」なんかも、ふたりの女性の「歴史」を
感じることができる)。ただ、今回は、ある一家、に家ごとスポットライトを当てて
この親からこの子が産まれ、そして…という、ひとつの大きな流れそのものを
描こうとしたように私には思えた。それは、戦争を生き延び、満州から引き揚げ
戦争そのものから「逃げた」という意識から死ぬまで逃れられない祖父母の人生や、
学生運動や宗教活動に、現実から逃げようとしてハマっていく子供たちの人生も
そうだ。そして孫は、古びた店や遺産相続争いという現実から逃げるのに
おじと祖母を連れて満洲へ旅立たった。大きな歴史の流れから逃げよう、とする
一族の話だが、後ろめたくない。むしろ、生きるために、自分の精神を保つために
積極的に何かを避け、逃げてきた、不器用な割に頭の良い人たちの話という印象だ。
戦後の東京や日本が復興で元気がよくなっていく時代も、その後また不景気で
皆がしょんぼりしている時代も、同じようにどこかに逃げようとしている…彼らの
姿は、ある意味ぶれてなくてすがすがしくすら、ある。

ただ、著者の意気込みはすごく感じたし間違いなく高評価を得るであろうタイプの
小説だとは思うのですが、個人の妊娠から出産を描いただけの「ジミー・ペイジ」とか
奥さんたちの井戸端会議やお受験だけで気持ち悪さを描いた「森に眠る魚」と
比べると、むしろ主題がうすまってたように私個人としては感じました。あんまり
印象的なシーンとかがなかったんですよね。ある家族がオウムらしき団体から
逃げてくるとか満州からの引き揚げ船の中とか、凄いシーンは多かったはずなのに…

木の上の秘密基地「ツリーハウス」というタイトルが、家系図の「ファミリーツリー」という
言葉も連想させる…タイトルがよすぎたのもなんだか勿体ないというか。

定価1700円(税込)→実感価格700円
(文庫でもよかったかなぁと。ちなみに読むのにまる3日かかりました。最近
本読むスピードが落ちてるのかな。でもこの小説は時間がすごくかかるタイプ。
そして時間をかけて読んだのに私には何も残らなくて残念だった。でも
好きな人はすごく好きだと思うな、これ)。
by tohko_h | 2010-10-25 10:43 | reading