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「花伽藍」 中山可穂

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「花伽藍」 中山可穂
たまたまデスクの脇に転がっていた文庫本を
読んだら、宿酔いが覚めた。
女性同士の性愛、という内容面は正直、
あまりシュミじゃないはずが…文章のうまさと、
これ以上は無いってほど誰かを好きになった心が
どう疼くか、もがくかをあまりにもうまく書いて
いるものだから、気づくと、すごい集中力で読んだ、
というか読まされた感じ。


「鶴」祭りの夜に出会った人妻と太鼓叩きの主人公。人妻の貪欲な体に
   のめりこんで太鼓より愛してしまった証を残したいと願いある決意を。

「七夕」失恋した夜に偶然ばったり会った知り合いと飲んでお互いの
    愛について語りあい、そして見せてもらった美しい七夕飾り。

「花伽藍」離婚した夫が借金取りからかくまってくれ、とちゃっかり
     乗り込んできた。そういえばあの素敵な義姉は?と懐かしく思い出す。

「偽アマント」恋人が部屋を出て行った。家財道具と猫を連れて…猫を
       失って彼女を失って、からっぽになった主人公は?

「燦雨」年老いた女がふたり小さな家で暮らしている。姉妹のように…しかし
    ふたりは25年間愛し合ってきた恋人同士だった。

女性同士の恋愛小説として一級品なんだけど、「鶴」に出てくる刺青彫りの
ハードゲイとか、「七夕」に出てくる新聞記者の男とか、「燦雨」に出てくる
若い介護士のお兄ちゃん(異性を感じさせないので、男性に対して警戒心の強い
同性愛の老女の信頼をあっさりゲットするデキる子)とか、男性キャラも魅力的に
描かれており、そこで繰り広げられる人間関係の濃密さ、真摯な感じが素晴らしい。
恋愛に限らず、家族とか知り合いとか友達とか、人間どうしのかかわり全般が
丁寧に描かれている。

誰かを愛したい、愛されたいと心から思ったことがあるならば、きっと何かを
感じ取らされてしまうそんな短編集です。

定価580円(税込)→体感価格600円(≒103%)
こんなに読み応えのある短編集が600円切ってるなんて、びっくり。
それだけ、そう長くないページ数でずっしり重たく温度のある話を
描けているということなんですよね、これって。
by tohko_h | 2010-10-30 23:06 | reading