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「テティスの逆鱗」 唯川恵

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「テティスの逆鱗」唯川恵
テティスという名前の女神をご存知だろうか。
ギリシア神話に登場する海の女神で、大変
美しかったという。そんな美しい女神を
タイトルに持ってきたこの話、テーマは、
女性の「美しくありたい」と願う欲望に
ついてである。


40代になってもなお美しいといわれている女優。
仕事と夫と子に恵まれながら、妊娠線を消したいと願う女編集。
暗い過去をリセットしてしたたかに生きているキャバクラ嬢。
そして、好きなだけ使えるお金を持っている資産家の令嬢。

彼女たち4人は、美容整形を繰り返し、なりたい自分を手に入れようとする。
お金でなんとかなるなら、なんとでもしたい、と、ずぶずぶとリピーターに
なっていく様子は、何かに取りつかれたような凄みがあった。
しみを消しても気になる女優。
妊娠線を消すと今度はバストが気になる母親。
ドレスを着こなすために豊胸をするキャバクラ嬢。
次第に耳の大きさすら気になってくる資産家令嬢。


この小説は、ありがちの平凡なドラマや小説のように「整形してキレイに
なるより心美人のほうが幸せになれる」なんて生ぬるいところに着地しない。
その手の「人間は外見ではない」というテーマありきのフィクションって
読み終わると「きれいごとだよねーそれって」とウソつかれたみたいな気に
なるし、整形でもキレイになったほうがいいのでは?結果オーライでさ、と
思ったりもするのだけど。

「テティスの逆鱗」は、整形を否定してもいないし、美を手に入れることは
悪いこととはされてないのだけど、今まで読んだその手の「心美人ガンバ!」的
インチキ小説より「整形なんかより、なんかすることがあるんじゃないだろうか」
と、整形の是非について、大いに考えこまされてしまう刺激的な問題作です。

こういう小説を読むときって、作家さんのルックスのこと考えちゃったり、
自分のコンプレックスのこと思い出したり、割とどんよりするんだけど、
不思議な読後感が残りました。

定価1600円→実感価格800円
文庫化したときは高須院長の解説を大いに希望します(笑)。

ちなみに私が言われて(相手が悪気がない分だけ困るけどモヤモヤした)
イヤだった容姿関係のコメント。

「やさしそう」 いかにもとりえが無い人間に言う逃げの褒め言葉じゃん・・・

「肌はきれいよね」 他の要素をさりげなく全否定。「は」ってね・・・

「化粧栄えしそう」 はい、顔、うすいです。確かにキャンバスとしてはいいかもね。


こういう暗い心にメス入れて誰かにグリグリして欲しい今日このごろです。
by tohko_h | 2010-11-17 21:43 | reading