「不機嫌な恋人」田辺聖子
2011年 05月 14日「不機嫌な恋人」 田辺聖子
今まで、なんとなーく文体とかムードが苦手で
「女性に人気!」とあおられているのを見ると
「けっ、みんなが好きってわけじゃないよ!」と
思っていた田辺聖子作品のあれこれですが、
この「不機嫌な恋人」は、恋愛小説として
すばらしい密度で描かれており、今の女性が
(特に自分でうっかり「女子!」とか言っちゃって
あらまーって感じの人が)読んでもしっくり来る感じ。
舞台は、平成、じゃなくて、平安、なのに!
美貌と機転と知識(薬や香りについてやプロ級という専門家っぷりも
カッコイイ)に恵まれた27歳の美人女房・小侍従。帝に仕え、皇子に言い寄られ、
そんな華やかな宮廷生活を楽しんでいた。しかし、最近は苦しい。
年下の少将に本気で恋してしまったからだ。小さな館での濃密な密会。
このままいつまでもひたっていたい関係。少将だって私に夢中だ。
だけど、彼はまだ、本当の恋に目覚めてはいない。早く目覚めてほしい。
私と同じようにほんものの恋愛感情を持ってほしい…と思っていたのに。
少将の恋を目覚めさせてしまったのは、別の女性だった。ある未亡人に
一目惚れし、狂おしい思いを持て余すようになってしまった少将。
このまま私たちは終わってしまうのか…そして未亡人も少将の愛に
応えるのか。物語は、緊張感のある展開で進んでいきます。
とにかく、出てくる女性たちがみんな頭が良くて感情表現が豊かで(作中での
和歌の使い方などもとても上手)、そんな魅力的な女性が恋愛という
自分の意志だけではどうしようもないものに苦しむ姿がいきいきと描かれます。
そして、恋愛ミステリーとしても秀逸。途中、小侍従が自分に気のある皇子と
ある賭けをするのですが、それが意外な結末に物語をひっぱります。
14、5歳の姫君が結婚していた平安時代において、27歳のヒロインは立派な
熟女であり、また、宮廷で活躍しており帝のそばにも侍っていた一流の
キャリアウーマンでもあったわけです(上級公務員だよね、一種の)。
そんな立派な「おとな」でありながら、恋愛を前に浮いたり沈んだりする
青春っぽい気分を最後に味わっていた彼女が、どんな大人の女性になりきるのか。
その鮮やかな結末まで一気に引きこまれて読みました。
というわけで、最近は、のりこ三部作あたりが注目される田辺作品ですが、古典の
知識のある著者が丁寧に描き現代女性に届けてくれたこの「不機嫌な恋人」が
私のお薦めの1冊です。