映画「日輪の遺産」

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「日輪の遺産」
浅田次郎の原作を読んだのはだいぶ昔ですが、
その凛とした日本人がたくさん出てくる物語に
胸を打たれたことはよく覚えています。それを
戦争を知らない世代の監督が、若い俳優たちと
映画にするという取組みははたして…とドキドキ
映画館に行ってきましたが、観ると「日本人で
よかった!」と胸を張ると同時に「こんなに立派で
頭のいい人がいっぱいいるのになぜ愚かな戦争
なんて」と、ハイテンションにではなく、自然に、
ふうっと思いました。



昭和20年8月。
ポツダム宣言受け入れまであと数日、という戦争最後の日々。
帝国陸軍少尉の真柴(堺雅人)は、極秘任務を命じられた。それは、南方から
陸軍がこっそり運んできたマッカーサーの財宝(金や銀やプラチナ)を山奥に
隠匿せよというものだった。その金で戦後の復興を行うのだ、と説明され、戸惑い
ながらも小泉中尉(福士誠治)、望月曹長(中村獅童)と共に動き始める。
世間や軍部の中では、本土決戦!を合言葉にまだ戦争は続くものだと皆が
信じており、終戦後を見越して動くことは誰にも知られてはならないのだ。

その財宝の積み下ろし作業に、20人の女子学生たちが駆り出される。
担任の教師(ユースケ・サンタマリア)のもと、明るく軍歌を歌い、見知らぬ兵隊さん
に素直に従い、重い財宝を運ぶ無垢な少女たち。やがて作業は終わり、ラジオは
戦争の終わりを告げる。すべてが終わったかに思えたが、ある悲劇的な運命が
彼らの前には待ち受けていた…

といった、ストーリーです。
戦場が直接描写されるわけではないのですが、それ以上に「戦争って…」と考え
こんでしまいます。素直で明るく働き者の少女たちが、清らかな声で(まだ、好きな
男の子の前で媚びてかわいこぶることも知らず、大人の女性のように仕事用の
声を作ったりもせず、生まれたままの本当に透き通った声なんですよね。ロー
ティーンの女の子たちの声って)歌うのは、
「いざ来いニミッツ、マッカーサー 出てくりや地獄へさか落とし」という物騒な歌。
花だの夢だのふわふわしたものを奪われて、楽しく心が弾んだ時にも、こんな歌しか
歌えない中で少女時代を過ごした彼女たちがあわれだ、と思ったんですが、
あわれ、と思った自分を恥じました。

そうやって強く生きようとする若い人たちがいたからこそ、今の日本で、こんなに
のんきに今生きてるんですから、私。それを、上目線で憐れむっておかしいですよね。

原作では、エリート軍人でバリバリの硬派って感じで描かれていた真柴ですが、
堺雅人さん特有のあの「笑ってるか怒ってるかよくわからない顔」で演じられることに
よって、戦争のために生きてきた人間の当惑、それでも人間らしく振舞いたい、と
心を何度も立て直す逞しさが感じられて、別のよさがありました。

大蔵省のエリートから陸軍に天下り的にやってきた経理のプロフェッショナル役の
福士誠治君演じる小泉中尉が任務の重さの中ふと笑顔を見せたり少女たちのために
背中まで流してあげようとする姿にはキュンとします。

そして、軍服着せたら日本一、の中村獅堂! 真柴、小泉のエリートコンビに対して、
彼だけが戦場に実際に立った経験者であり、脚を負傷して引きずっています。
コワモテだけど自分の信じるもののために行動と言葉がずれてない信頼できる
美しい日本人像として描かれるいい役でした! やっぱり歌舞伎の人って
声とか立ち姿が本気出すとすごく美しいよね。美形とかそういうのを越えて。

…で、なんといっても、原作以上に設定やキャラがリアルになっていたユースケさんが
演じる担任の先生がよかった。平和主義者でお上から目をつけられてる、戦時中を
生きるのは大変そうだった、文学青年がそのまま大人になったかのような…普段、
フジテレビのクイズ番組で「先生」って設定でバカなコント風の進行してますが(笑)、
そんなの観てる間は忘れていました。

というわけで、役者さんたちの演技は素晴らしかったです(現代シーンのなかには数人
ちょっとなんか違うんじゃないかって人もいたし、演出もビミョーでしたが)。
ただ、小説で読んだときと比べて、後半の「あるショッキングな出来事」の描かれ方が
分かりにくい。途中まで、そこに至るいきさつがはっきりわからないので、つい
うっかりそうなっちゃった?みたいにミスリードされてしまいそうな危うい描かれ方で
そこはちょっと勿体ないかな~と思いました。

あ、テレビCMで「うっとうしいなあ」と思っていた元ちとせの歌は映画本編では
流れません(CMソングとして使われていただけだったみたい)。よかったよかった。
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by tohko_h | 2011-08-28 16:59 | watching