人気ブログランキング |

「舟を編む」三浦しをん

「舟を編む」 三浦しをんa0079948_2320239.jpg
辞書を愛する人は 心おもしろき人~♪
玄武書房・辞書編集部では「大渡海」という
新しい辞書を出版する準備が進められていた。
新しい言葉を聞くとすぐにメモを取る松本先生、
辞書一筋の定年間近の編集者荒木。そこに異動
してきた27歳の馬締(まじめ)は、その苗字の
とおりまじめな青年で、言葉に対する感覚が
独特に繊細な、辞書を作るために生まれてきた
ような男だった…


デビュー作「格闘するものに〇」で編集者志望の就職活動女子を描いた
三浦しをんさんが、今度はリアルな編集者を描いた小説を出した!
というだけでも気になる1冊だし、なんといっても、舞台は、辞書の
編集部である。
これまでも、ファッション雑誌や漫画雑誌や週刊誌、あるいは
文芸編集者が出てくる話なら、映画やドラマや小説や漫画で時々あった。
だけど、辞書の編集者が登場するお話は私の知る限り「本邦初」では
ないだろうか。

なんだか、冒険小説みたいだった。
まじめな馬締、逆に営業向けのチャラ男タイプの同期・西岡、辞書職人
みたいな松本先生や荒木。事務能力に優れた佐々木女史。印刷所に
製紙会社など、出版社の外側の人たちも含めて、皆で、言葉の海に
果敢に挑んでいるみたいな。膨大な先人たちの築き上げた言葉の山を
目指すような。深い深い言葉の森に分け入るような…だから、
冒険小説同様、読んでると不思議とテンションが上がってきた。
実際は、ひとつの言葉をめぐって人々が議論したり、紙のめくれかたを
追求したり、プライベートでのラブレターが分厚くなったり…とにかく
言葉を伝えるためのツール・辞書や、言葉そのものを愛する人たちの
姿が生き生きと描かれている。

三浦作品のこういう「皆で何かをやる系」の小説には、箱根駅伝を
描いた名作「風が強く吹いている」もそうなんだけど…皆がひたむきに
何かに向かっている姿を、一歩引いてまぶしげに見つめるポジションの
人が配される。そして、才能や情熱あふれる主人公を「自分はこの人の
ようには生きられない」と半分うらやましく、半分せつなく、そして
やさしく見守っているという感じ。そういうところが私はとても好きだ。
今回も、辞書作りに向いている人たちを見守りながら「自分は営業のほうが
合ってるんだろうな」と少し寂しく思うチャラ男な西岡のシーンはどれも
とってもチャーミング。

さらに、途中で、別に辞書のことなんて考えたこともないファッション誌
の編集者だった岸辺さんという女の子も異動してきます。最初は地味な
辞書編集部への配属にモヤモヤしてますが、自分の居場所と仕事を見つけ
成長していく様子がすがすがしいです。サラリーマン編集者には異動は
つきもの。自分がろくに読もうと思ったことすらない本の編集をする
ことだってあるんですよね(私も今はまさにそうで、その中できちんと
自分を立て直した岸部さんからは学ぶことがありました)。

辞書を作る日本語に真摯な人たちの話、といっちゃうととてもまじめな
小説みたいだけど(主人公の名前は馬締さんだし)、エッセイなどで
三浦さんが発揮する面白いもの好き、面白いことを面白い言葉で書くのが
大好き、というすばらしい力も今回はフル稼働。馬締が一目ぼれした相手に
書くラブレターがらみの恋愛騒動など、読んでてぷっと吹き出すような
コミカルな笑いから、ふっと心が温かくなるような笑いも盛り込まれていました。

笑ってじんとして、日本語の国の人に生まれてよかったな、と
素直に思っちゃったりもしました。

ちなみに、実際の辞書の編集部では、たとえば「イケメン」という言葉を
採用するときに
イケメン【イケているの語幹+面】
イケメン【イケているの語幹+MANの複数形MEN】
どっちの表記になるべきか討論したりするそうです。
(このケースの場合、形容する言葉+複数形、というのはあまり日本語と
してはないので、面を採用したそうです)

…そんな「実際の辞書作りの現場の面白い話」、実は聞いてきちゃいました!

この本の発売を記念して、去る9月20日に、三省堂神保町本店で、三浦しをん
さんと、岩波書店の辞書の編集さんと、三省堂の辞書売り場の店員さんの
トークショー&サイン会が行われたのです。
発売日に三省堂本店でこの本を買った私は、なんと、20番というとても
早い番号の整理券をゲットしていました。が、しかし。現在の私は、
辞書編集部の皆様に負けないくらい多忙の身。18時半に会社を出てるなんて
平日には許されない身分。

だけど、当日…奇跡的にぽかんと仕事がある程度片付いて、1時間ちょっと
なら会社を抜けてもなんとかなる、というコンディションになんとか
なったんです(なんとかしたとも言う)。
しかも、会社から徒歩10分弱ですからね、会場。
というわけで、雨の降る中を、「舟を編むトークショー」に出かけ、三浦しをん
さんたちの軽妙な辞書トークを楽しむことができました。
三浦さんも、学生時代、辞書でエッチな単語を引いていたと知り、私も!と
ちょっと嬉しかったり(笑)。

昔、テリィの舞台公演が見たくて夜勤をサボったキャンディ・キャンディの
ことを「仕事を放り出して男を取るとは!」と馬鹿にしてましたが、もうこれで
キャンディのことは一生言えないわ(笑)。

というわけで、三浦しをんさんのサイン入りで2度目の読み直しを始めました。
やっぱり、面白い。
ドラマにするならNHKがいいかも、となんとなーく思いました。
by tohko_h | 2011-09-24 23:19 | reading