「ジェントルマン」山田詠美

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ジョン・レノンが裸になって、ヨーコの上にまたがって口づけている…
この写真が撮影されたのは、1980年12月8日の朝。
つまり、ジョンが暗殺される数時間前のことでした。
彼のベストアルバムのジャケット写真としての撮影だったそうです。

この写真と同じ構図で、部屋の中で横たわるふたりの男のシーンから、
山田詠美の最新作「ジェントルマン」ははじまります。
余談ですが漫画だったら著作権とか肖像権で問題になりそうですが、
山田さんの美麗な文章でつづられているので、そこも大丈夫です(笑)。
そのふたりの男。
ひとりは、非のうちどころのない「ジェントルマン」・漱太郎。
もうひとりは、彼に恋こがれる夢生。
夢生が漱太郎に心惹かれたのは、彼がすぐれた美点を多く持ち、誰もに優しい
ジェントルマンだから、ではありません。
高校時代、ある日偶然、漱太郎が隠し持っている壊れた心や残酷な本性に
ふれてしまい、その瞬間に、心をつかまれてしまったのです。
漱太郎の残酷な行為の目撃者として。
漱太郎の黒い部分を知る唯一の存在でいられること。それは夢生にとっては、
かけがえのない喜びであり、生きがいに限りなく近いことでした。

愛する人の特別でいられること。
これは恋愛中の人間にとっての共通の望みでしょうから。

紳士然とした漱太郎の公の姿を見ながら「よくやってるな」と、本性との落差を
楽しむ余裕すら、夢生は持っていることができました。

それはある意味「蜜月」だったはずなのに。

…山田詠美の美麗な文章で繰り広げられるいびつな人間の姿と心理描写。
言葉で人間を酔っぱらわせることができる稀有な文章のうつくしさ、正確さに
夢中になって読みました。

しかし、帯のアオリで「哀切極まる衝撃の結末に、あなたは耐えられるか。」と
書いてあるために「ラストはショッキングにバーンとああなるんだろうな」ということが
割と容易に想像できて、別にミステリーじゃないから結論が見えてもいいのかも
しれないけど、「衝撃的なことが起きますよ」とフリがあると、やはりどうしても
予想しちゃおうとするんですよね。それで、あるラストシーンが脳内に結ばれた
状態で、物語全体を「そこに至るまでのプロセス」として読んでしまう。

なので、ものすごーく生意気な事を言うと(今回は編集者としてのものいいっぽく
なっちゃいますが)、私が担当だったら、帯で「衝撃の結末」って言葉は避けて
おくだろうなぁ、と思いました。
「衝撃の」と書くことによって逆に衝撃にクッション置いちゃった、みたいなね。

お話自体は、漱太郎ってどんな鬼畜なんだろう、と思ったんだけど、さほど具体的に
ヒドさが描かれていないので、「ジェントルマン」と「実は…」の落差に興奮、までは
至らなかったんですが、好きな人の何もかもを肯定しようとし続ける夢生のイタさは
わかる気がしました。世界の中心に好きな人を据えて愛し抜くのって素敵だけど、
その軸(好きな人)がゆがんでると、世界もゆがむ。そういう悲しみが物語全体を
貫いているように感じました。

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by tohko_h | 2011-12-02 17:01 | reading