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直木賞と芥川賞

第135回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)の候補作が
決まりました。

(直木賞候補作)
伊坂幸太郎 「砂漠」(実業之日本社)
宇月原晴明 「安徳天皇漂海記」(中央公論新社)
古処誠二  「遮断」(新潮社)
貫井徳郎  「愚行録」(東京創元社)
三浦しをん  「まほろ駅前多田便利軒」(文藝春秋)
森 絵都 「風に舞いあがるビニールシート」(文藝春秋)

(芥川賞候補作)
伊藤たかみ  「八月の路上に捨てる」(文學界6月号)
鹿島田真希  「ナンバーワン・コンストラクション」(新潮1月号)
島本理生  「大きな熊が来る前に、おやすみ。」(新潮1月号)
中原昌也  「点滅……」(新潮2月号)
本谷有希子 「生きてるだけで、愛。」(新潮6月号)


自分より若い候補者がだんだん増えてきたなーという、きわめて個人的で
どうでもいい感想を持ちつつ(笑)、とりあえず、この中で読んだのは…
伊坂幸太郎の「砂漠」と、三浦しをんの「まほろ駅前多田便利帳」の2冊です。
「砂漠」は、砂漠のような社会に出る前のオアシス=大学時代、ということで
「八チクロ」とか「オレンジデイズ」みたいに可愛くてきれいな人たちは
出てこないけど、伊坂さん流のクセのある人も出てくるキャンパス青春物。
入学から卒業まで描かれていて、読み終わる頃には自分も仲間気分で
楽しかったです。そして三浦さんの「まほろ駅前~」は、ライトノベル風の
何でも屋さんを営む青年たちの物語ですが、傷ついた人の立ち上がり方
とか、生きていくうえで大事なことをちょっとナナメに、でも優しく語る
人物たちが魅力的でした。というわけで、どっちも好きな作品だけど、
伊坂さんと三浦さんの代表作にそれぞれが位置づけられるのかな、と
思うとやや微妙ってところかなあ…
貫井さんと森さんは、別作品は読みました。貫井さんは当たりハズレが
激しい(そのへん東野圭吾タイプだと思ってます)印象、森さんとか、
あと、今回ノミネートされてないけど豊島ミホさんとか、最近勢いがある印象。

でも、直木賞の場合は、いくつか作品をたくさん書いているうちに
「ここまで来ましたね」ってことで受賞してる感じが見てると多いので、
伊坂さんは今回受賞しそうな気がします。
直木賞って、代表作になりそうな凄くできのいい作品が候補作どまり
だったのに、その後に書かれた「及第点だけど、前作と比べるとどうなの
かなあ」っていう作品で決まった作家さんもたくさんいるから。
この前「容疑者Xの献身」で、東野圭吾さんが直木賞キメてたけど、
私の中で彼のベストはやっぱり「白夜行」なんだけどな。
芥川賞は、文芸雑誌に載ったものばかりでどれも未読なのでなんとも
いえませんが、島本理生推しなので(「ナラタージュ」は、イヤな面も
含めて恋愛を描ききった凄い小説だと思うし)とれたらいいなーって
ぼーっと思ってます。
三浦さんと伊坂さんの候補作の私的感想文を以前書いたのでここに一緒に
アップしておきます。

「砂漠」 伊坂幸太郎
今最も旬な作家さん、と思われる伊坂氏の作品を読むのはほぼ初めてでした。
「I love you」という男性作家恋愛アンソロジーのトップで、姉の元カレとの再会と
主人公の不安な恋をきれいに描いた素敵な短編を書いていたのは既に読んでます。

仙台の大学で出会う5人の仲間たち。
お調子者で「夢はスーパーサラリーマン」なんて言ってる鳥井。
鳥井に「みんなのことを上から俯瞰してるね」と言われる冷静な北村。
日なたの似合うやさしい女の子で、実はスプーン曲げも得意な女子、南。
最初のコンパから男子一番人気だけどクールビューティーな東堂。
そして「世界平和のために!」なんてコンパの座をしらけさせてしまったり
色々困った人だけど、なんとなく目が離せないおかしな男西嶋。
鳥井が「東西南北の苗字を持つ人がいたら麻雀するしかない!」と皆を集め
卓を囲んだところから、このグループは誕生します(麻雀の描写が多いのですが、
私はルールを知らないなりに適当にそのへんは流したりしつつ・・・でも小説は
楽しめたので問題はなかったような)。
物語は、その「俯瞰してるね」と言われる北村目線で進むのですが、
彼の目線はいわゆる見下し目線などではなく、客観的で全員に対して
心地よく等距離で、じわーっと付き合いが深まるほどに情愛らしきものが
言葉の端々に感じられて・・・語り口の作り方がうまい作家さんなのかな。
すごく心地よく読めました。
春は、クラスコンパで出会い、麻雀で親しくなって、短大のコとの
合コンのはずが、怖そうなお兄さんとのボーリング対決になったり、
夏は海に行ったり、秋は学園祭で意地悪な文化人と戦おうとしたり、
冬はクリスマス、という風に、ベタな学生ライフを送るみんな。
もちろん、恋愛だってキャンパスものには欠かせません。
主人公の北村は、社会人の素敵な恋人ができるし(この恋人の女性が
グループのみんなを「いいねえ」って眺めてる視線が心地よさげで好き)、
グループ内でも、誰が誰を好き、みたいな話は出てくるんですが、
皆、クセのあるメンバーなので、間違っても、北川悦吏子あたりが
ドラマにしそうなキャンパスラブ&ピースなお話にはなりません・・・
(ああいうベタな青春ドラマも結構好きで見ちゃうんですけどね)。
グループのメンバーに「小太りでめがねをかけて理屈っぽいことを言って
皆を盛り下げかねない」という西嶋がいる時点で、そういう路線はありえない(笑)。
本の引用から格言を突然つぶやいたり、可愛げがないったら。
ネットでどなたかが書いていた感想文で「カンニング竹山みたいなヤツ」と
書いてあったけど、たしかにそっち系なんです。

逆に、おしゃれできれいきれいしたドラマだったら「美人でクールな
東堂さんに対して、庶民派の南ちゃんは葛藤がないのかしら」とか
「主人公の北村くんは結構カッコいい設定みたいだけど、そういう人が
このグループで本当に居心地いいのかな」とか、どうしてもうがった
ポイントが気になっちゃってくると思うんですが、この小説だと
この人たちの友情や恋愛が、けしてベタベタしてたり、「大好き!」と叫んだり、は
無いし、テンションは高くないけど、温度も手触りもちゃんと感じられて、信用できる
感じがするんです。

最後のほうで、西嶋が
「俺は恵まれないことには慣れてますけどね、大学に入って
友達には恵まれた」、と、変わり者にしてはあまりにも普通のことを
言うんですが、ほんとよかったね、と言ってあげたくなりました。
といっても、本当に話はくどいしウザいところも多いので、同じクラスにいて
私が彼の友達になれたかどうかは、わからないんだけど・・・(笑)。

「まほろ駅前多田便利軒」 三浦しをん
三浦しをんの最新刊。
東京と神奈川の間にある、住所はかろうじて東京だけど、というまほろ市で
便利屋を営む多田と、彼の前に突然表れた行天という高校時代の同級生。
チワワを預かり、ナマイキな子供の塾への送迎をしたり、家族や恋人のふりをして
みせたり、納屋を整理したり・・・
前半は、多田が依頼をこなしつつ、依頼人の事情も語られてちょっといい話、
風にオチがついていく、という、うまいんだけどそれだけかなーという印象
だったのですが、だんだんよくなっていうところがさすが三浦しをん。
青年ふたりが便利屋、なんていう設定でしをんさんが描いた、というと
もしかしたらどこかでやおいテイスティーになるのかしら、なんて
期待邪推もしてたんですが、そんなこともなく(笑)。

便利屋として頼まれたことをこなしつつ、自分たちの人生についても
いやおう無しに考えざるを得なくなっていく2人。特に愛情方面。
そして、さえわたる著者のペンは、愛についての美しい格言のような言葉を
どんどん繰り出していく。
塾の送り迎えをされている少年は、母親に、もっと普通に甘えたいと思ってる。
だけど、母親は、塾に通わせ、恥をかかないように送り迎えもつけるのが
息子を大事にすることだと信じてる。これは、もう、どうにもならないことなのだ。
多田は、少年にに言う。
「お前の母親は、お前を無視してるわけじゃない。ただ、お前が期待するのとは
興味のありかがちょっとずれてるだけだ。・・・やり直せることなんかほとんどない。
いくら期待しても、おまえの親が、おまえの望む形で愛してくれることはないだろう。
だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。与えられなかったものを、
今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。
そのチャンスは残されている」
親に愛されなかった子は、自分の子供を愛せないとか、虐待の連鎖について
語るときよく言われるけど、これ、子供にとっては酷なことでもある。
愛されなかった人が、愛することで・・・与える側になれる。これって
簡単じゃないけど、救いがあるし、傷ついた魂の再生には有効だと思う。

ある女性が、子供を持って、初めて愛するということがわかったと言って語った言葉。
「愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手から
もらうことをいうのだと(この子を産んで知りました)」
これが、人を好きになることの基本だな、と、電車の中で読んでいてうなずいて
しまった箇所。もらうか与えるか、の二者択一より豊かな気がする。

この前読んだ「私が語りはじめた彼は」は、恋愛のために家族を壊して
幸福を見失っていく人々の悲劇ともいえる物語だったけれど、
今回の「まほろ駅前~」は、愛することをやめないで人生を続けることの辛さ、
厳しさ、だけど力強くてすばらしくもある、そういう、広い意味でのラブストーリー、
恋愛小説というより、愛情小説、といった感じの素敵な物語でした。
それにしても、エッセイと小説の印象の違いが村上春樹といい勝負だな、しをんさん。
どっちも好きだけど(笑)。
by tohko_h | 2006-07-03 18:10 | reading