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「震度0」 横山秀夫 ~阪神大震災の扱いが粗雑でなんだかなぁ~

「震度0」 横山秀夫

その日の朝は、阪神大震災の報道で始まった。
N県警本部の人々は「うちからは600キロ離れているところだし、まあ
ちょっと応援出すかどうかくらいかな」と、どこかヒトゴトのようにその
報道を眺めたりしていた。遠くの大地震より、身内の事件というか…
実際、管轄内のホステス殺しの犯人が県内に舞い戻ってきた、という
ことで、検問をしいたり駅を封鎖したり、緊急態勢をしいていたさなかだったし、
ある「事件」が同じ朝、起きていたのだ…
その朝、人望の厚い警務課長の不破が失踪して、ミラーの曲がった車が
乗り捨てられていたことが分かる。ただの大人の男が一晩家を空けた
くらいで騒ぐものではない、と最初は異論を唱えるものもいるが、単なる
蒸発か、事件か、手がかりのない中、警察内部で情報戦がスタートする。
キャリア組VS叩き上げ、もと同僚で出世頭の妻VSさえない男の妻(みんな
公舎に住んでるので、ご近所さんだったりする)、などなど、各種
駆け引きや足の引っ張り合い、情報戦が警察の中で繰り広げられる。
不破の行方は? そして、このバトルの行く末は…

ひとことで言って、横山秀夫の名前をメジャーにした「半落ち」
劣化版といった印象。
舞台は警察内部(「半落ち」のほうは、裁判所関係も出てくるけど)。
謎の鍵を握る人物は、「半落ち」のほうでも、人望の厚い県警の人間だった。
「半落ち」は、アルツハイマーの妻を殺害した、と、皆に慕われる梶警部が
自首した(だけど、殺害してから2日間、自首するまでの行動については
けして語ろうとはしない)ところから物語が始まり、その謎の2日間について
取り調べの警視、地検の検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官が
追求し、調べ、知ろうとして、最後に梶の真実が明らかになり、感動、みたいな
話だったんだけど、梶を始め、キャラの描きわけが巧みで、それぞれの視点で
梶を通して自分の仕事も見つめなおす、みたいな感じで各章が進んでいくのが
凄くよかったんです(梶の失踪の理由は、ちょっと私は・・・?だけど)。
今回の不破については「あのおとなしくて温厚な人が」とかなんとか
N県警のみなさんがセリフで話してるだけなので、魅力が伝わってこないので
事件に巻き込まれてないといい、みたいに読んでて切実になってこないんです。
その県警の皆さんの書き方もちょっとステレオタイプだったような・・・
キャリアはキャリアっぽく、叩き上げは叩き上げっぽく、いかにもの
言動を取ってるので、その人物ならではの魅力みたいのがなかった。
ただ、描写として、男性の作家が、女同士のいやらしい駆け引き、相手を
出し抜いてやったわ的な感情をかなりリアルに描いていたのが「凄い」と
読んでて思いました。男性作家の一部にいる「男性から見たら都合が
よさそうな女性」とか「女の人ってこんなもんだろうと見くびって造形した女性」に
なってなかったのがすごいです。男性の警官たちより女たちの社宅妻合戦の
エグさのほうが面白かったです(と思うのは私が女子だからかもですが)。

ただ、この話、阪神大震災が節目節目に出てくるんだけど、学校でいう
チャイムみたいな感じで(今、犠牲者が何人越えた、とか、今、自衛隊が
救助に向かった、とか)時間の刻み用にしか使われてなくて、これが
平凡なある朝、でもいっこうにかまわなかった気がします。実際に
震災の犠牲になった方々、多くを失った方々がいるという現実を思うと
もちろん震災や事故や事件を小説に書くなっていうことでは
ないんだけど、適当に気がきいた構成のために使ってみました、的だった
ように思えて、そこが最大の疑問でした。警察内部にも激震がその時!
みたいに小説的な収まりのよさを求めて、のことだとしたらちょっと
浅いなーというか。
 
by tohko_h | 2006-08-25 12:01 | reading