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「ふたたびの恋」 野沢尚

「ふたたびの恋」 野沢尚

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まだまだ夫婦の機微とかよくわからなかった(今もそうなんだけど(笑))
20歳そこそこのころから、野沢尚さんのドラマって大好きでした。
「恋人よ」や「親愛なる者へ」なんかの恋愛と結婚を描いた話も好きだったし
その後のサスペンス路線の「リミット」や「眠れない夜を抱いて」もドキドキ
毎週見てたし、単発ドラマでやっていた「反乱のボヤージュ」は、実は
岡田准一くんがあまり好みじゃない私が見てもよかったくらい、名作だったし…
その流れで小説も読んでました。

なので、2004年に亡くなったと知ったときは「もう、新作読んだりドラマ見たり
できないんだ・・・と、ぼんやりとさみしかったのですが、今回、文庫で
発売された「ふたたびの恋」を読んで、改めて、野沢さんの新作が読めない
悲しみを覚えました。シナリオライターとして先に名前を知ったので、
ドラマの人というイメージが強かったんですが、改めて、すてきな小説を
書かれてたんだな、と。

というわけで、久々に胸にしみる恋愛小説が3本+遺作のプロット1本が
収録されている1冊です。

「ふたたびの恋」
キャリアはあるが、少し芸術よりの作風でちょっとマイナーな脚本家の室生晃一は、
休暇のために沖縄のリゾートホテルに向かう。そこで、室生は、自分がシナリオ学校の
講師だったころに教え子だった、今は売れっ子シナリオライターの大木新子に再会する。
新子はかつての恋人でもあり、このホテルに昔一緒に旅したこともあったのだ。
彼女が沖縄に来たのは、今まで書いてきた若い人向けの恋愛ドラマの枠より
大人向けの公共放送の放送の21時枠のドラマのシナリオを発注されたものの
ストーリー作りに行き詰まってのことだった。ふたりは、4日間で、大人の恋愛ドラマを
ディスカッションしながら作り上げていく…
というわけで、これは、シナリオライターの男女が再会して、恋愛ドラマのネタを
練りながら、お互いの過去も少しずつ振り返って、という構成で、メインとなる
ふたりのやりとりは、会話だけで進むシナリオ風で進んでいきます。舞台劇にも
なったというこの作品、実際にドラマの現場にずっといた作者らしく、
「こういう安易な偶然はダメだ」とか「これじゃあ、切なさが足りない」みたいな
リアルなダメ出しが、シナリオライター希望の人には勉強になりそうです。
恋愛ものとしては、小説で読むとさほど緊迫感はないけど、言葉が緻密で
読ませます。

「恋のきずな」
聖子は、40歳の主婦。夫は仙台に単身赴任、息子は高校では写真部に所属して
いる。学校を卒業してからすぐに夫と結婚したので、恋愛経験はほとんどない。
夫に週末会いに行っても、泊まってくると「セックスをした」と年頃の息子に思われそうで
律儀に日帰りしてきちゃう優等生タイプ。ある日、息子が「写真をとっているうちに
仲良くなったんだ」と、転校生でサッカー部員の松浦英介を自宅につれてくる。
英介は、サッカーの能力を買われて、親類の家に下宿しながら高校に通って
いるので、家庭的なご飯を食べさせてやって欲しい、と息子に頼まれたのだ。
礼儀正しく気のつく子、そして心にそよ風が吹き込むような笑顔が爽やかな英介に
聖子は少しずつ惹かれていく。息子の留守中も遊びに来て、サッカー部での
人間関係の悩みなどを打ち明けられるようになったのもくすぐったくて嬉しくて…
タイトルがちょっと安易かなーと思ったのですが、向田邦子さんのあぶらが
乗り切った時期の短編「思い出トランプ」あたりの怖いくらいの完成度。
40歳の女性が17歳の少年に恋をする、という、下手な人が書いたら
「気持ち悪い!」とか「ありえないでしょー」と思えるようなお話を、ほろ苦く
すてきな恋愛小説に仕上げています。私はこの本の中でいちばん好きなお話。
松浦くんが聖子に送るはがきの文面もすごく少年っぽくて清潔でgood。

「さようならを言う恋」
2年前に別れた妻から呼び出された藤田は、呼び出されたホテルの
スイートルームに向かう。二人が別れた原因は、幼い子どもを亡くしたことだった。
お互いの顔を見ていると、息子に似ている部分があるので、悲しくなってしまうのだ。
大手の広告代理店で働いていたお嬢様だった元妻・なほと、洋食屋を
まかされていた藤田は、出会ってたちまち恋に落ちる。彼女の母校のチャペルで
式を挙げ、ハネムーンベイビーを授かった藤田となほ。しかし、小学校1年の冬に
バイクにはねられて、ふたりの宝物だった息子は死んでしまった。
ふたりは離婚して、藤田は、31歳のひとりでお弁当屋をやっていた女性に
請われてオムライス弁当を作って暮らすようになり、なほは広告の仕事に復帰する。
…こうしてお互いの運命をばらばらにして2年後、元妻が藤田に告げようとしたことは?
というわけで、ホテルでのふたりの会話と、なほと藤田の恋の回想が交互に
語られるスタイルの小説。まだまだ脳みそが子どもな私は「二人で一緒に
暮らして、また子ども作って一緒にやっていけなかったのかなあ」と、やるせない
思いにもなったんですが・・・実際に、事故や病気で子どもを失った夫婦が
その後離婚するっていう確率は結構なものらしいと聞くし、そういうのもわかる気は
するので、とても読んでいて重たかったです。ユーミンの「心ほどいて」という曲を
思い出しました。

「陽は沈み、陽は昇る」 ※プロット
バブル後、サラリーマンとして平凡に生きる私が出会った女探偵は
意外な理由で私を尾行していた…。というわけで、大人のラブストーリー。
野沢さんが亡くなってから読んでいるせいか、どこか投げやりというか、
光が差し込んでる感じのない、陰のトーンって感じの印象。


というわけで、大人だからこそ切ない、という恋愛小説です。青春と恋愛は
すんなりと仲良しだけど、大人と恋愛ってなると、また複雑な味わいがあって
魅力的な小説でした。クセのない滑らかな文章なのでお薦めしやすいかもー。
by tohko_h | 2006-09-10 16:35 | reading