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「風が強く吹いている」 三浦しをん

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「風が強く吹いている」 三浦しをん

三浦しをんさんが箱根駅伝の小説を書いた、と聞いて
てっきり「エースが監督を好きで、でも監督のまなざしは
有望新人に注がれていて・・・」みたいな、ボーイズラヴ路線の
コメディかな、なんて勝手にイメージしてましたが(笑)
(だって昔、エッセイの中でそういう駅伝小説なら書ける!
とかしをんさんが書いてたし・・・)

書店で、その本の帯を見ると「超ストレートな大型青春小説」と
あるではないですか。おお、正統派青春小説? フェイント!!
ハードカバーで1890円(税込)というなかなかのお値段にひるみつつも、
ちょうど週末だったし、装丁がなんだか可愛かったので買ってみた。

が、ワタクシ。
箱根駅伝には、正直、興味ナッシングだったりします。
お正月にはお笑い番組見るかセールに駆け出すかしてたし、
親も見てなかったし。
大学入学して最初の年明け、学校に行ったら、クラスメイトが
みんな箱根駅伝の話をしていて盛り上がっててびっくりしたくらい。
結婚して夫の実家でお正月するようになって初めて見ました
(彼らは神奈川県民で、駅伝のコースなんかも詳しいです。
ここが難所でね、とか凄く詳しい(でも夫は興味なし))。

というわけで、三浦しをんの新作だ!
と張り切って買ってみたものの、1日放置してありました。
駅伝に関心が薄いっていうかほとんど無いのに書き下ろしで
1200枚、500ページもある長編小説を読めるのか、と思い。

しかし、夫が出かけてしまったのでヒマになり、昨日の夕方
読み始めて、4時間強、トイレに行くこともおやつも忘れて
一気読みしました。しかもラスト30分は涙もノンストップ!
エッセイはどれも甲乙つけがたい三浦さんですが、小説の中
だったら、私はこれが圧倒的に好きです! 大好き!
読み終わったあとに胸に吹き抜ける風の心地よい小説。
まっすぐ感のあるタイトルと疾走感のある文体が素晴らしい。

物語は、ある春の夜の出会いからはじまる。
寛政大学4年の清瀬灰二(キヨセカイジ、通称ハイジ)は
銭湯の帰りに、完璧なフォームで駆け抜ける菓子パン泥棒と
出会う。彼の名前は、寛政大学新入生の蔵原走(クラハラカケル)。
清瀬は、自分の住むおんぼろアパート、竹青荘に走を誘う。
新入りの走を入れて、ちょうど住人の数が10人揃ったところで
清瀬は、全員に「今から1年間、みんなで箱根駅伝を目指す!」と
突然言い出す。驚くみんな。ほとんどの者が陸上とは無縁の
学生生活を送ってきたのに、冗談じゃない。素人が駅伝に
出るなんて、しかも、予選会をクリアして箱根まで行くなんて
そんなの普通に考えたら無理なんだから。
もちろん、反対するものもいる。やりたくないものもいる。
しかし、清瀬の、個々の性格を把握したトレーニングメニューや
アパートの住人同士の絆で、素人軍団の彼らは、だんだんと
駅伝に挑む心構えとたくましい脚と気持ちを身につけていく。

と、あらすじを書くとベタなんですが。
これ、意外と漫画だったら簡単に面白くできると思うんです。
10人のキャラクターを絵柄と特徴づけをデフォルメして動かせば
青年漫画誌のスポーツものとして成立させることができる
漫画家は少なくないと思います。だけど、小説で、10人の
大学生の書き分けとそれぞれの走りへの思い、大会での走り、
心の葛藤や成長などを、三人称の小説の形で書くことって
相当難しいと思うんです。だけど、この小説は、奇跡的な位
10人の物語、として完成されているんです。素晴らしい!
襷をまわすように、それぞれの思いが次々と真摯に正直に
語られていき、ただ強く走り続ける試合シーンは圧巻!!!
というわけで、読み終わった今、可愛くて可愛くてたまらない
彼らのキャラ設定をコミックス単行本のキャラ紹介風に書いてみます。


1区 王子/柏崎茜・文学部2年。顔は王子様みたいに綺麗だが
     協調性の無い漫画ヲタク。
     
2区 ムサ/ムサ・カマラ。理工学部2年の国費留学生。知的で温和。
      黒人=俊足、と思われてしまうのに戸惑いがち。

3区&4区/城太郎(ジョータ)と城次郎(ジョージ)。ともに1年生。
      ルックスがそっくりな双子。大学までずっと一緒にやってきた。
      すごく仲良し。明るくて人気者の素直でかわいいふたり。

5区 神童/杉山高志・商学部3年。僻地で神童扱いされてたことから、神童。
      山道を元気に駆けていたので登りの道に有利?

6区 ユキ/岩倉雪彦・法学部4年。司法試験合格済みで、弁護士志望。
      知的でデータや理論を聞くと納得して練習するタイプ。

7区 ニコチャン/平田彰宏・浪人と留年で25歳で理工学部の3年生。
        高校で陸上経験アリ。煙草が好きであだ名もニコチンから。

8区 キング/坂口洋平・社会学部4年。クイズマニアで、録画しても
      クイズ番組を見るほどのマニア。ニックネームも「クイズ王」から。
       
9区 走(かける)/蔵原走・社会学部1年。
        走ることの神様に祝福されている天才ランナー。高校時代の
        ある事件がきっかけで陸上部をやめ一般入試で寛政大へ。

10区 ハイジ/清瀬灰二・文学部4年。アパートに10人の人間が揃い駅伝することを
       夢見ていた。最後の春にその夢が叶い、皆を引っ張っていく。

監督 アパートの大家・田崎源一郎。

ニラ アパートで飼われている犬

他にも憎たらしいライバルの体育大学のエリート学生や、
商店街のかわいい娘さんなど、漫画チックな脇役たちも物語を盛り上げてくれます。
これ、堤幸彦監督あたりにドラマ化していただいてもいいかも。
映像化なら、日テレ(駅伝を放映してるテレビ局)しかないんだろうけど・・・
「マイボス☆マイヒーロー」のスタッフのセンスならイケるかも!

とにかく、何もしないで一気に読むのにふさわしい一大エンタテイメント小説です。
今年のナンバーワン候補かも。

そして余談。
もしも私がしをんさんの担当編集者だったら「あのー、今年の甲子園とか
どうでした?」と、ぜひぜひこの筆力で高校野球小説を書いてほしい!と
願わずにはいられないでしょう。あさのあつこさんより、むしろ彼女に
最後のあの対決についてだけでも聞いてみたい・・・ううう。
学生スポーツ、という、書き方によっては爽やか過ぎてイヤミになりそうな題材を
ここまで清清しく突き抜けて書きとおした三浦さんの才能にほれぼれとしました。
カケル君に走りの神さまが祝福を与えているように、きっとしをんさんには
小説の神さまがついている気がする。それくらい面白かったです。
by tohko_h | 2006-09-24 18:21 | reading