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「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹

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「赤朽葉家の伝説」
桜庭一樹
(東京創元社)

鳥取の旧家で、製鉄で財を成してきた
名門・赤朽葉家の本家に生きた
3代の女たちと彼女たちを取り巻く人々の
神話のように語られる物語。
どこかファンタジックでもあり、しかし
リアルな昭和の物語にもなっており、
他のどの小説にも似てないな、という
独特の味わいがある1冊でした。

一代目の万葉(まんよう)。
彼女は、山の民に置き去りにされて拾われっ子として多くを望まず
生きてきたが、赤朽葉家の大奥様に望まれて若き当主の妻となる。
幼いころから未来が視えてしまう才能を持ち「千里眼奥様」と呼ばれ、
高度経済成長で繁栄していく赤朽葉家になくてはならない存在感を持つ
女性になっていく。そして、思わぬ「再会」も。
何度か未来視の中で見ていた、作業服を着て空を飛ぶ片目の男と、
この結婚によって出会うことになるのだ。

万葉の娘、毛毬(けまり)。
毛深い赤ん坊として生まれ、この名を授けられるがすばらしい美貌の持ち主に。
バブル時期と重なった青春時代を、中部地方を統括する暴走族のリーダー格として
粗暴に、奔放に過ごし、その思いを少女漫画に描きたちまち大ヒット。
二十歳で売れっ子作家としての人生を歩み出す・・・
父の愛人の子・百夜に恋人を次々と寝盗られても気づけず、やがて跡取りの
はずだった兄が死んでしまったために婿をとり子供を産んでもほとんど
一緒にいられないくらい忙しい、週刊連載に全てをささげた人生の行方は…

毛毬の娘・瞳子(とうこ)。
本当は「自由」と名づけられる予定だったが、毛毬が普通の名前をつけた(この
赤朽葉家の子供たちは「鞄」「泪」「孤独」といった具合に、それぞれが
生まれたときや人生の内容にマッチした名を当主に授けられることになっていた)。
名前だけではなく、平凡な人生を送る自分は、千里眼奥様と呼ばれた祖母の孫
としてふさわしくないつまらない人間だ、と思っている。そして無気力という
世代全体の気分にも影響を受けているので冷めてもいる。
しかし、祖母、万葉が今際の際に告げたひとことの謎を追うことに。

というわけで、三代目瞳子が祖母たちから聞いた話、というかたちで3代の
女たちの物語を語っていきます。私は女性の一代記とか激動の人生を描いた
物語、が大好きで、これも、歴史ロマン的なものを期待して手にとって
みたのですが、歴史ロマンというより、ファンタジックな要素が強いかも。
特に第一部の万葉のパートは、千里眼である彼女が、周囲の人たちの死を
予見してしまう、というくだりが読んでいて怖くもあり、彼女が気の毒でもあり、
という感じでした。個人的に特に面白かったのは美貌のヤンキーから少女漫画界の
スターへ、という毛毬の話。暴走族時代に可愛がっていた女の子との別れは
かなりせつないです。そして編集者との力関係が逆転していくさまがとても
リアルに描かれていたような…そして無気力ニート世代の瞳子の、
元甲子園のスターなのに落ちぶれてしまった恋人(すぐ会社を辞めちゃう)との
関係のだらだら感もうわーありそう!って感じ。
そして、こういう話ってドロドロ濃厚になりがちですが、最後までどこか突き放したような
落ち着いたテンションで語られるのも新鮮でした。
不思議な世界に迷い込んだような、読み終わるまで出てこられないような読後感は
村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を中学生のときに
読んだときの気分にちょっと似てます。ちょっとくたびれて(つまらなくてくたびれた
わけじゃないです)お風呂上りみたいに軽くぐったりしたんだけど満足はしてる、
みたいな。

2段組だったので結構読むのに時間がかかり、年をまたいでしまい初読みの
1冊と奇しくもなりました。

ちなみに昨年のブック・オブ・ザ・イヤーは・・・
橋下弁護士のまっとう勝負は、カバーが撮りおろしだったりとかしてとてもツボでした…
でもこれを選んじゃうとあとが続かない気がするので、殿堂入りで(笑)。
あと、甲子園関連本も一応全部抜いておきます(ある意味ハンカチ王子パーフェクトブック
昨年を物語る1冊として絶対!って気もするけどね(笑)…で、でも
大学に入ったっておっかけるもん(笑)←メ、メディアでですよもちろん。昨年限りの
ヒーローじゃないもん、旬とかそういうことじゃないからさ、というわけでやめとく。

というわけで、超自分的ブック・オブ・ザ・イヤー2006は、
「風が強く吹いている」(三浦しをん)ですねー。
まさに今行われている「箱根駅伝」に、陸上経験者2人+走りのシロートで作った
急ごしらえのチームで臨むという青春疾走小説。キャラ設定がマンガチックで
コミカルな小ネタも挟みつつ、丁寧な取材に裏付けられたリアリティがあるので
駅伝を知らない私もグイグイ引きこまれました。後半の10人ぶんきっちり描かれる
箱根駅伝の試合(?)シーンは力強く感動的。ゴールしたときは顔が涙で
グチャグチャでした。

ついでに、マンガのほうは「ハチクロ」かなー。雑誌が移ったあたりからの暗い展開と
ラストのまとめかたがあまり好きじゃなかったけど(個人的には山田さんが真山さんを
諦めて野宮さんと仲良くなったくだりも納得行ってないっていうか、唐突な印象)
前半のあの可愛らしさ、楽しさ、すばらしさを思い出してやはり挙げておかねば。

ちなみにブック・オブ・ザ・イヤー2007は、浅田次郎さんの「中原の虹」が
完結するはずなので(で、ですよね、浅田さん、講談社さん!)、9割がた
決まってるようなものです。でもそれをひっくり返すようなすばらしい小説と
出会えたらもっと幸せ。春に三浦しをんさんの文楽をテーマにした小説が
出るらしいので(ダ・ヴィンチに書いてあった)それも楽しみ。
by tohko_h | 2007-01-02 11:29 | reading