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「オトナの片思い」 恋愛アンソロジー

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「オトナの片思い」
この手の恋愛オムニバスって、
読んでみると大抵、好きな作品と
そうじゃない作品の差が
激しいんですよねー。
まあ、恋愛っていうものが、
好き嫌いがつかさどる
世界なわけなので、恋愛小説の
好みに落差や個人差が
あるのも、もっともなこと。
…それ以前に作家の好き嫌いもあるし。


ついていた初出を見ると、雑誌料理通信にて去年から
今年にかけて連載されていた作品をまとめたものらしい。

なるほど、料理通信…たしかにどの「片思い」の物語にも、食事や
ご飯が登場してくるのだ。好きな人とともに何かを食べること、
ひとりでご飯を食べながら誰かを思うこと…誰の日常にもよくある
そんな場面を切り取ったような短編を集めた1冊。




石田衣良「フィンガーボウル」★夫との生活に不満は無いけれど、ひとまわり
年下の青年を高級レストランに連れて行っておごることが楽しみな人妻。
フィンガーボウルを見て「何?」と素直に聞く彼を可愛いと思うけれど…
ジビエと青年の野性味に萌えるヒロインの気持ちは判らなくも無く。
興奮はするけど寝なくてもいいかな、みたいな曖昧な気持ちは、
片思いと呼ぶにはあまりにも打算的なのだけど。

栗田有起「リリー」★好きな人ができた瞬間、ビビッと来る代わりにおなかを
下してしまうヒロイン。恋愛にふさわしく無いその瞬間を「リリー」と可愛く
呼んでいるが…恋に落ちておなかを下した後のヒロインの行動に
思い切り感情移入。デパートに行って試着の鬼と化すヒロインの気持ち、
ものすごく判ります。私も昔は、新しい服は彼と会うときにおろす、という
可愛い意気込みがあったなー。今なんて、新しい服は彼の目の前から
隠してますが(笑)。

伊藤たかみ「からし」★夫婦って一緒に暮らしてると顔が似てくるとか
口癖が似てくるとか俗にいうけど、作家夫妻の場合は文体とか作品の
雰囲気が似るの?とびっくりした作品。そう、伊藤さんのツマは、角田光代さん。
この小説、角田さん作って書いてあったらそうかなーと思うくらい
凄く似ててびっくりした。同棲カップルのだるい空気感の描き方とかが。
そのカップルが作るカレーがやたらおいしそうで(ひき肉で作るんだけど)
ちょっと読んでるとカレー食べたくなった。
余談・作家夫妻っていえば、小池さんと藤田さんご夫妻の作品の美意識が
高そうで時々キザっぽいところも似てるかも~。

山田あかね「やさしい背中」★ロケ番組ディレクターのリエコが、海外ロケで
ともに旅したカメラマンの男性に寄せる淡い思い。私はテレビの仕事じゃないし
海外ロケはしたことがないのですが、雑誌の撮影の仕事で、
カメラマンさんがもたつく私(編集)をさらっと飛び越えて現場を綺麗に
フォローした瞬間、恋愛感情じゃなくてシンプルに尊敬と感動の気持ちを
抱いたことは、何度もある。それが海外でちょっとタイプだったらこういうのも
あるかもなーと思った。思いが深まるシーンが美しい。

三崎亜記「Enak!」(エナ!)★あらすじを書くのが難しい作品が多い三崎さん。
ファンタジーといっても剣や魔法は出てこないのだけど…このお話の世界では
影を持つ普通の人間と、遠くの町から移住してきた「影無き者」(全ての欲望が
とても希薄になっている)が共存している。普通の女性が体調を崩し、同じ
マンションで暮らすエナさんに助けてもらいお粥を作ってもらったことをきっかけに
親しくなるが…というお話。このお粥の描写もとてもおいしそうだった。
具合が悪くてレトルトでいいや!と思ったときにこんな風に誰かがふっと
お粥を作ってくれるって、ちょっとドキっとしそうだ、と思ってしまうくらい(よく
考えたら胡散臭いんだけど)このちょっと現実離れした世界の描写は心地よい。

大島真寿美「小さな誇り」★この話が、いちばんこのアンソロジーのタイトル
「オトナの片思い」にふさわしいと思った。結婚すると信じていた男に捨てられ
自尊心を失って臆病になったヒロインには、年上で既婚だけど、気の利いた
口説き文句や美味しいお酒や食事を共にする(でも寝ない)相手がいた。
しかし、会社で、新入社員で部下の若い男性にときめいてしまう。ふたりきりの
残業で高まる胸。彼と食べるつつましい残業食のほうが、年上の男友達と
バーで食べるごちそうより美味しく感じられてしまうのだ…という心の動きが
丁寧に描かれている。いつも行きつけのお店でヒロインが頼む
マッシュルームのオムレツと温野菜のサラダとトマトと鶏肉のリゾットと
カボチャのスープ、という献立、活字を読んでるだけでおいしそう…

大崎和仁「ゆっくりさよなら」★俺は嫁が大好きだ。だけど嫁は、俺を
置いて出て行くという。なんとか、離婚の話、なしにならないのか、と
あせる俺。しかし彼女はさくさくと「ケータイの家族割引を解約したい」と
連絡してきたり、離婚届の保証人もサクサク頼んでいるようだ…
この「俺」の元(?)ツマの魅力がイマイチわからないので、感情移入は
しずらかったけれど、分かれてもなんとなくダラダラと用事があって
会い続け、ご飯もさらっと昔からの行きつけの店で食べちゃう、という
雰囲気はわかる気がする。私も別れ話をしながらエチオピア(御茶ノ水の
有名カレー店)でご飯食べたりしてました。カレーのご飯をいつも通りに
残して、そしたら彼もいつも通りにそれを食べてました。その相手とは
結局別れそびれてしまいましたが・・・(笑)。

橋本紡「鋳物の鍋」★ルクルーゼのお鍋が登場。離婚してコーヒーショップで
アルバイトを始めた女性の心の揺れを描いたお話。バイト先の貧乏演劇青年に
ひょんなことからご飯を食べさせてあげることになり、ちょっと殺風景なひとりの
部屋が華やいだ、くらいの話なのですが、その食べさせるご飯がおいしそう。
1度目は、ひとりで作って何日も食べていたおでんの残りをタマゴでとじて
ご飯にかけてかきこんだらしい! そして次は、ルクルーゼの鍋(結婚してた
ときから愛用していたもの)に鶏のもも肉と昆布とキャベツ、人参、葱、きのこを
ざく切りにして、酒と水を注いで塩少々。ふたをして強火で、湯気が出て弱火。
できあがったらポン酢、ゴマだれ、マスタードソースなどで食べる…というのを
出すらしい。おなかへってるときに読むと辛いです。

井上荒野「他人の島」★お惣菜工場で知り合った3人の男女の心の交流。
わけありの中年男性・シゲさんと、彼がちょっと気になっている麻美と、
麻美のことを気に入っているらしいカルロスという外国人。ベルトコンベヤーで
流れてくるお惣菜の詰め込み作業をしながら心を通わせて仲よくやってきた
3人に別れのときが…最後に飲んでいたビールはおいしそうだった。

佐藤正午「真心」★長年すれ違っていた恋人同士があるアクシデントをきっかけに
再び時を巻き戻し…という再会もの。とてもテンションの高いお話の展開が
抑制された文体で描かれていたのが印象的。

行数の少なさで判ると思うのですが、井上、佐藤作品あたりはなんだか
読んでいてもしっくりこなくて軽く長し読みしてしまいました・・・(汗)。

角田光代「わか葉の恋」★わか葉、というのはヒロインの名前でもなく、ヒロインの
若さを象徴したタイトルでもない。40歳を過ぎたヒロインが、ひとりで堂々と
食事ができるようになった近所の定食屋の店名である。ここで、ひとりで
同じものを頼んでいる若い男性が少し気になっていて、久々に恋愛スイッチが
入るヒロインと、その同年代の友人の「オトナ女子のはしゃぎ方」を可愛いと
思うか、ちょっと可愛くない、と思うかで作品の好き嫌いが分かれるかと。
私は、角田さんが書く女性同士の会話が苦手なので、ダメでした・・・
わか葉でいつもヒロインがたのむおろしカツ定食がすごくおいしそう。
トンカツ好きだと読んでいて内容にときめけなくても、ときめいちゃいます。
by tohko_h | 2007-08-12 20:56 | reading