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事件は会議室でも刑事部屋でも、起こっている。

事件は会議室で起きてるんじゃない!
現場で起きてるんだ!

「踊る大捜査線」の主人公・青島くんの名セリフである。
頭でっかちな管理職に向かって現場の刑事としてぶつけた
このセリフは、当時とっても流行ったはず。

しかし、横山秀夫の描くD県警の会議室では、「事件」が起こる。
現場の刑事ではなく、管理部門・・・つまり、警察内部の人事考査や
トラブル解決を本業とする警察官警務課調査官の二渡真治警視たちの
苦悩を描く「陰の季節」と、
同じ県警で似顔絵描きをしている女性警察官・瑞穂が主人公の「顔」。
どちらも、事件の現場で証拠を集め容疑者を追い詰め、という
いわゆる刑事物と比べると、地味な部署で働く人たちが描かれる。

と書いてしまうと「それって、ミステリーとしても退屈じゃないの?」
「警察内部のごたごたなんて小説にして面白いの?」と思うかも
しれない。確かに他の作家がやったら、そういう失敗もあるかも
しれない。しかし、横山秀夫が描く“地味な”警察官たちの物語は
つまらないどころか、読み始めて数分でハマってしまう魅力を
たたえている。「陰の季節」では組織の一員としての立場と個人の
思い、みたいな葛藤が描かれ「顔」では、男社会である警察の中で
自分の立ち位置を誠実に探し続ける婦警がけなげに奮闘する。

自らの任務をまっとうしようとするもの、ポストにこだわるもの、
女らしさを売りに男社会で生き抜こうとするものなどが個性豊かに
人間くさく描かれているという点で、警察版「働きマン」みたいな
お話ですよーといっても差し支えない気もする(いや、マジで
警察という特殊な組織が舞台なんだけど、いつのまにか婦警の
瑞穂に感情移入しちゃったりしましたよ。仕事とは?みたいなことが
押し付けがましく無くじわーっと伝わってくるんです、
不思議なくらい)。

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「陰の季節」 横山秀夫
D県警シリーズ第1弾。
4編収録。

「陰の季節」
二渡警部は、あせっていた。
できあがった人事考査の
一覧表を後は印刷だけ、
というところで、天下りで
ある会社の理事をつとめているかつての名刑事が、
暗黙の期限である3年を過ぎたのに辞めたくないとゴネて
いるというのだ。今年定年の人を送り込むポストが塞がった
ままではどうしようもなくなる、と、二渡は自らその元刑事
尾坂部に会いに行く。彼はなぜポストに固執するのか…

「地の声」
「そうねそうねの曽根さん」と揶揄される、人は悪くないけど
警察官としての能力はイマイチで出世も遅れている曽根課長。
彼が管内の飲み屋のマダムとできている、との匿名の投書が
舞い込み、警務課監察官の新堂は、独自に調査を開始する。
曽根の身辺を信頼できる後輩に調べさせ、相手の女の
身辺を洗い、密告の手紙が警察内部の誰かからなのか
調査が進んでいくが、とんでもない誤算が!?

「黒い線」
D署の似顔絵警部、お手柄!と犯人にそっくりな似顔絵を描き
逮捕に貢献した似顔絵婦警の平野瑞穂。しかし、彼女はその翌日
女子寮を出て姿を消し、無断欠勤をしてしまう。署内の婦人警官の
母や姉のような存在である七尾係長は、瑞穂を心配して
その行方を捜す。彼女はどこに? そしてなぜ、手柄を立てた
のに姿を消したのか?

「鞄」
柘植正樹警部は、いつものように県議会の庁舎の中をまわり
議会で警察についての質問が出るかどうか議員たちに聞いて
まわっていた。その耳に、以前、選挙の贈賄容疑で関係者を
挙げられて、県警に恨みを持つ鵜飼議員が、議会で「爆弾」
(のように物騒で警察が答えられずに困るような質問)をぶつける、
との情報が飛び込んでくる。鵜飼の爆弾質問の内容を知りたくて
あらゆるつてを使い奮闘する柘植だが・・・


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「顔 THE FACE」 横山秀夫
「陰の季節」の中に出てきた
似顔絵婦警・平野瑞穂が
ヒロインのシリーズ2作目。
こちらは、繊細な若い女の子
でもある瑞穂が(カラオケで
酔っ払って歌っちゃうような
普通の女の子なのです)
組織の非情さ、自分の無力さに挫折しそうになりながらも、
幼い頃から夢だった婦警として、そして自分の特技である
似顔絵を描く仕事を通して真摯に事件に向かっていくさまが
描かれます。同期のお茶汲みと愛想がよいのがウリに
なってしまっている女子とか、女は頭数に入れない、と
いうガチガチ頭の管理職のおじさん刑事とか、普通の
女子会社員が読んでも「こういう人、警察にもいるんだ」と
やたら共感できてしまうこと間違いなし。作者が
瑞穂に向ける目線もちょっと優しげなので、他の作品と
比べてどことなく温かみややわらかさが感じられました。
by tohko_h | 2007-10-10 02:49 | reading