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石田衣良「親指の恋人」

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「親指の恋人」
石田衣良
小学館の携帯小説マガジンで
連載されていた小説。ゆえに、
携帯の出会い系で出会った
男女のラブストーリー、という
これ以上ない通俗的な物語、
しかも、作品の冒頭で、2人が
心中をしてしまうことが新聞の
記事という形で明かされている。
つまり、既にこの世にはいない
ふたりの最初で最後の恋をさかのぼって追うというスタイルで
物語は展開するのだ。

大学生のスミオは、外資系銀行の社長のひとり息子で、
六本木ヒルズの家賃300万の部屋で父と、父の新しい妻と
何不自由ない暮らしをしている。しかし、実の母は自殺して
おり、人の愛し方が判らず、恋愛にも就職活動にも身が
入らない冷めた都会の男の子だ。

彼が、ヒマつぶしに気まぐれでアクセスした携帯の出会い系サイトで
知り合ったのが、横浜で暮らす20歳のジュリアという女の子。
彼女は、パン屋と出会い系サイトのサクラのアルバイトをして
働きづめだけど、その年収はスミオの家の1ヶ月の家賃より
はるかに少なく、生きるのにせいいっぱい。

この、格差社会のトップとボトムにいるようなふたりが、携帯サイトで
知り合い、メールで心を通わせ、恋に落ちつつもお互いの立ち位置の
差に苦悩する、という、和製ロミオとジュリエット風の悲恋物語は、
石田さん、軽々と書いているという印象。クセの無い文章でテンポよく
進む物語は、携帯小説という媒体にも見事にフィットしていたのでは
ないだろうか(加筆とかあったのかもですが)。

ただ、20歳の若いふたりがこれだけ真摯に愛し合って、どれだけ
困難や絶望的なことが続いても…死を選ぶだろうか。というか
選んで欲しくなかった。健康で愛し合っているだけで、二十歳の
ふたりなら、なんとでもなるはず、と、ロマンスとは程遠い現実を
生きているからこそ、彼らよりひとまわり年上の私は思うのだ。

定価¥1,575 (税込)→自分的プライス¥788(50%)
装丁もイラストも素敵なんだけど、本文が薄かったのと、
結末がやはりふにおちなかったので厳しめで。
by tohko_h | 2008-02-03 21:01 | reading