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「さよなら渓谷」吉田修一

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「さよなら渓谷」 吉田修一
帯の煽り文句に「悪人」を超える…みたいな
ことが書いてあったので気になって手に
とってみました。舞台は、ある団地。
近くの渓谷で、男児の遺体が見つかる。
変質者の仕業かと思われたが、男児の
母親が疑われ…というのが導入部。
現実にあった子殺しの事件がいくつか
浮かんで来るのがわれながら
薄ら寒いのですが(家庭内
殺人の報道が多すぎて麻痺してるかも)。


報道陣は、容疑をかけられた母親を毎日囲み続ける。
しかし、ある記者が、母親が住む部屋の隣人が、
15年前に起きた別の事件の関係者だったことを知る。
そこから、物語の焦点は、その「子殺し疑惑のある女性の
隣家に住む家族」に移って行く。
一見平凡に見える男。色っぽいけれど、
どこにでもいそうな地味な妻…しかし…
ひとつの犯罪で人生が変わった男が、過去と向き合い
生きなおす為に選んだ道の凄まじさに驚きつつも
実際は、どうだろう、と、リアリティの面では疑問も。
しかし、現実とか常識を超えて生きるしかない人っていうのも
いるのかな、みたいに…色々考え込みつつ読んだ。
小説1冊にまる3日かけるなんて私にしては珍しい・・・

普通に「吉田修一の新刊」として読んだとしたら「重たいなぁ」と
その後味のずっしり感とともに充実した気持ちで読み終えたと
思うのですが、宣伝文句にあの衝撃作「悪人を超える」と
書いてあったので…過剰に期待して読み始めたので
物足りなかったのも事実。キャラクターに立体感があるのは
さすがだけど(「東京湾景」とか「春、バーニーズで」みたいな
都会派作品だと、キャラがぼんやりしてることが多いけど、
ヘンな言い方すると、体臭を感じるように描かれてました、
この小説の中の人はみんな)。

犯罪にかかわった者の日常とその後を描いた物語としては
乃南アサの「風紋」と「晩鐘」という傑作長編があります。
こちらもお勧め。
by tohko_h | 2008-06-19 23:59 | reading