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「風花」川上弘美

こんにちは。
昨日友達に会いに行くときに、手土産に「聖☆おにいさん」を
持参したら、最初の3Pで吹き出してくれました。
笑いのツボが近い彼女にはぜひ読んでほしかったので、その場で
笑ってるところが見られて幸せです。報われました。

といいつつ、昨日読んだのは報われない系の話。
なんだか読後感が重たくて、自分にしては硬質な感じの
読書レビューになってるような。芸風違うじゃーん、と
思いつつそのままアップ(笑)。

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「風花」  川上弘美
日下のゆりは33歳。
システムエンジニアの夫の
卓哉と結婚して7年。
平穏な日々が、夫に恋人が
いるという一本の電話で破られる・・・。
何気ない日常の中で、色あせてゆく
愛を描く長編恋愛小説。



数字だけみると、このヒロインのデータは、2年前の私だ
(現在の私は35歳で結婚して9年目となっている)。
と、算数が苦手なくせに書店であっという間に暗算が
できてしまったその日から、引っかかっていた本。
しかし、私には、川上さんのおそらく一番人気のある
作品で一般受けしてそうな「センセイの鞄」がどうしても
受け付けなかった(全部読んだけど、好きになれなかった、
というか、生理的にダメでした)前科があったので、
どうしようかなーとか思ったんですが、読んでみることに。

恋愛に理屈なんていらないのよ!と言われればそれまで
だけど、個人的に、わけもなく好きだから好き、的な
恋愛小説はあまり好きじゃない。魅力的な人物が出てきて
主人公と一緒に惚れてしまうくらいの「必然性」があるほうが
断然好み。読んでて楽しいし。そういう意味で、主人公の
のゆりが、ないがしろにされても裏切られても愛し続ける
卓哉(たっくんと彼女は必死で呼ぶ。愛が醒めたふたりの間で
この能天気に明るい響きはどれだけ悲惨に空回りした
ことだろう)のいいところ、好きになっちゃいそうなところ、が
描かれていなかったので「別れれば?」としか思えなかった。

まあ、その、しょーもない男の人に惚れてしまって惨めな
ところまで凹んでいく心理、みたいなのがおそらくテーマって
ことで、たっくんがつまらぬ男に描かれているのは、おそらく
作者側にとっては必然だったのだろう。

リアルでもあるもんね。
「なんであんなつまらない男に必死になるんだろうなあ」と、
同性の友達の恋愛話や夫婦話を聞いてて、聞いているほうが
いたたまれなくなるような、疑問だけがふくらんでくとき。

そして、私だって、過去の恋愛(たいして無いんだけど・・・)で
今思えば、だけど、相当つまらない、一緒にいたかった理由さえ
すでに忘れてしまっている程度の人に必死になって、泣きながら
受話器(携帯世代じゃなかったから(笑))を握りしめていた過去は
正直あるのだ。

だからこそ、のゆりの「別れたくないの」と、浮気夫とその浮気相手に
舐められても、妻としての矜持がボロボロになっても必死で
居続ける姿の惨めさ、情けなさ、その本気っぷりが、なんとなく
わからなくもなくって・・・だからこそ、思うのだ。
「うわーいやな小説」と。
たぶんこの話に対してこう感じることは、ある意味褒め言葉に
近い気がする。
甘く切ない、と恋愛を形容するときにセットで使うフレーズがあるけど
度を越した切なさは、甘くなんかない。苦い、でも、まだきれいごとレベル。
「恋に苦しむ自分」に酔える余地があってこその苦さだ。
のゆりレベルまで行くと、なんか、しょっぱい、って感じがする。

そんなしょっぱいヒロイン・のゆりが、自分に投げられた夫のちょっと
した優しさに期待めいたものを抱きつつある、というような場面で
「よし、いまだ」と本気出すシーンがすごい。彼女は夫の前で泣くのだが、
「涙はほとんど目からではなく、鼻から流れ出た」(文章は違ってます、
私の記憶によるもの)というのだ。ドラマのように美しく眼尻から
頬のラインを伝う涙を流す、なんてことはできないにせよ、悲しみを
つきつめて鼻から涙をずるずるさせてしまう。そんな最悪に近い
泣き方をしつつ、のゆりは思う。

みっともないことなんだな、他人と共に
やってゆこうと努力することって。(本文より)


方向性が間違っていること、報われないことを知ってるくせに、
だからみっともないってわかってるくせに、やめられない努力。

1度「いとしい」と刷り込まれてしまった相手への気持ちは、
みっともなくてみじめな自分と天秤にかけても、重たく胸を
締め付け続けるのだ。
by tohko_h | 2008-07-03 17:14 | reading