音楽劇「ガラスの仮面」②
2008年 08月 20日往年の大女優という設定です。雨の音が聞こえるわ・・・いいえ、あれは
雨じゃなくて喝采よ・・・あれが聞こえるうちは女優でいられるわ、みたいな
セリフを言います。傍らには、源蔵さんも控えています。ちなみに
月影先生が芝居と紅天女への思いを歌うソロナンバーがあるのですが、
演じる夏木マリさんは、ジャズとかシャンソンが似合うような、ちょっと
しゃがれ声まじりの粋でおしゃれな歌い方で、歌詞と音楽の古臭い感じ(この芝居の
歌パート、割と全体的にそうでした。まあ、マンガの世界観には合ってるかな。
ポップな曲だと雰囲気違う気がする)とギャップを軽く覚えました。
客席中央通路に、白いうわっぱりを着てラーメン屋のオカモチを持った
女の子が現れます。マヤ(大和田美帆)登場です。蜷川さんが
「オカモチが似合う」と絶賛しただけあって、本当に素朴です。
実際は、大和田獏さんと岡江久美子さんの娘さんってことで、
境遇的には芸能一家に生まれた姫川亜弓的な大和田さんですが、
ホントに「普通の女の子」に見えます。うん、このマヤはありかも。
通路を通ってステージにあがるマヤ。「ラーメンの出前に来ました」
と云うのですが、実は月影はラーメンが食べたかったわけではなく、
数日前に近所の公園で、小さい子たちにテレビドラマの再現ごっこを
して見せていたマヤを見て「この子は女優になれる」とひらめいたため、
出前を口実に呼び出したのです。「最近、何か芝居を見た??」
「はい、姫川亜弓さんのロミオとジュリエットを」。原作では、
亜弓の母親が主演の「椿姫」なのですが、のちに亜弓が演じる
ジュリエットを舞台版ではここで前倒ししたみたいです。
「ちょっとやってみせて」と言われて、最初はモジモジしつつも
ひとりでロミオとジュリエットを演じ分けるマヤ。いきなり「もっと
そこは囁くように」と演技指導を始める月影先生。更にマヤは
「学校の発表会の劇にも出るけど、そこでバカな笑い物になる
不細工な女性の役をやるんです。おどけてればいいって先生は
いうけど、私は、違うんじゃないかなって思って」と、月影に相談。
ここで、バカな女(=ビビという道化役)を熱演してみせるマヤを
見て「大和田さんのマヤ、いいんじゃ」と客席が引き込まれた
気がします。ビビを演じつつ、なんか違うな・・・と思ってうまく
いってないマヤちゃんのニュアンスがよく出てました。
ステージの背景にはセットはなく、鏡が置かれており、客席が
映っています。これ、いろいろなシーンで何度も出てくるのですが…
ちょっと落ち着かない感じでした。
発表会当日、マヤは思わぬことから、ビビの惨めな気持ち(不細工
なので、さげすまれるのです)を理解して、役の仮面をすっぽりと
かぶれるのでした。それは、母親が見に来てくれなかったこと。
笑い者役の娘を見るのがいたたまれなくて行けなかったのです。
しかしそんなことはわかるはずもなく、母さんが来てくれない、と
惨めさの頂点に感情が高まり、そのテンションでビビを熱演、
大成功を収めます(ちなみに、原作では、マヤ母はラーメン屋の
住み込み店員ですが、舞台版だとどうやら自分で経営している
ようです、だから原作ほど生活が苦しく見えなかったり…単に
店長とか余計なキャラをはしょるための設定変更だと思うけど)。
で、すっかり演劇に目覚めて、劇団に入ることを決めたマヤ。
最初に行くのは亜弓がいるオンディーヌです。ここで、
速水真澄(大都芸能者社長・マヤの運命の人)、小野寺
(意地悪な演出家)、亜弓、そして、桜小路くん(のちの
ボーイフレンド)と知り合います。
ここで、マンガでも有名なシーン、逃げた小鳥のマイムです。
「鳥かごから小鳥を逃がしてしまった飼い主」をセリフなしで
演じろ、といわれて、マヤは棒立ちになり、周りには笑われますが
亜弓は「これは・・・」と驚きます。小鳥を追う目線などが
ほんものの演技、という感じがしたから。さらに亜弓が
「私がその鳥を捕まえてあげる」と名乗り出て、口笛で逃げた
小鳥を呼び寄せるというマイムをして見せます。ここでは
「荒削りだけど演劇的な感性を発揮したマヤと、技術面で
半端なくすごい亜弓」という対照を見せるシーンなんだけど、
実際は、ちょっと地味ですね。亜弓が、ほかの劇団員の群れに
埋没していたのもちょっと。亜弓役の奥村さん、という女優さん
(新人さんだそうです)は、奇麗で、エレガントな雰囲気はあるの
ですが、前にぐっと出てくるものがないのが厳しいかも、とちょっと
心配になりました。
しかし、オンディーヌは学費が年間70万(原作だと20万円ちょっと
だったので現在の貨幣価値に直したと思われます(笑))もかかる、と
聞いて、とぼとぼと去るマヤ。しかし、月影先生がOPENする
新しい劇団つきかげ、に入ることになります。母親の反対を押し切って
家出をして黙って出てきます。つきかげには、青木麗(ボーイッシュな
美少女。男性の俳優さんがやってました)を筆頭に、全国各地の
演劇を志す若者たちがいました。
ここでまた名シーン。
「はい」「いいえ」「ありがとう」「ごめんなさい」の4つの言葉を
使って、講師の先生と会話を続ける、というレッスンの場面です。
「ちょっと太った?」と言われて「そんなことないですっ!」と
怒ったらそこでアウト、みたいな。アドリブの才能を鍛える訓練なのかな、
たぶん。で、講師と生徒がコミカルにやりとりをして・・・失敗しても結構
和やかムード。ところがそこに亜弓が現れて「あたくしが先生役を
やります。顔なじみの講師の先生より緊張感が出ていいでしょう?」と
自分から提案。すると月影先生は「じゃあひとりだけ」とマヤを指名します。
なんと、夕方になるまで何時間もマヤが受けて立つ(コーヒーにミルクや
おさとうは?と聞かれても「いいえ」とそらっとぼけたり結構強引な気も
するのだが)・・・で、引き分け、というのが原作ですが、ここが音楽劇。
♪はい、いいえ、ありがとう、ごめんなさい、よっつのことばでー、とか
つきかげの皆さんが歌い始めるのです。ステージの中心ではマヤと
亜弓がテーブルをはさんで真剣に会話劇を展開している様子が口パクで
進行。まわりを囲むつきかげの皆の歌でストーリーを進めちゃいます。
何時間もやりとりはつづいたー、みたいな感じで(笑)。歌にあわせて
椅子に座ってるつきかげメンバーが足をトントントン、と踏み鳴らしているのが
時計の「ちくたくちくたく」的に時間経過を表現しつつ。ここの演出、
私はイマイチでした。緊張感が感じられないんですもの。マヤと亜弓の
初対決なのに歌で説明して終わりかぁ、みたいなガッカリ感は否めません。
で、つきかげの結成記念初公演で、「若草物語」を演じることになります。
新入りのマヤが四姉妹のひとり・ベス役をもらったことに納得いかず
嫉妬する同僚のさやか、とか、いろいろ漫画ではあるんですが、そのへんは
全部割愛で、とにかく「熱にうかわれて苦しむシーンの芝居ができない」と
ひたすら悩むマヤ。ある日、練習が終わった後、いつの間にか仲良くなって
いたらしい桜小路くんと夜道を歩きつつ相談するマヤ。「演劇で頭がいっぱい
なんだね」と寂しそうな桜小路と、「熱に苦しむ演技がわからない」と悩むマヤ。
ふたりの上には、雨が降り注いでいます・・・本物の水が!! 傘を
さしていてもびしゃびしゃ音がします。更に彼が帰って、ひとりになったマヤは
傘を捨てて雨の中にたたずみます。ずぶぬれになって考え続けるマヤ。
そしていきなり舞台の上に「若草物語」のセットが登場。
ベッドの上で熱にうかされるベス・・・を演じるマヤ。それを見て
花屋に走り紫のバラを見つめ、何か店員に言ってる真澄。
おれの情熱ーみたいなソロの歌もありました。
「あの子熱をおして出演してたんですって」とびっくりする亜弓。
原作だと結構ベスの役作りとか面白いんだけど、そのへんが何も
描かれてなかったし、熱のシーンだけだったので、ここでは
マヤのすごさは「熱を出したのに芝居をしていた」というところからしか
感じられないような・・・
その「若草物語」は、真澄や小野寺の妨害で、新聞などで酷評され
(ふたりは、月影先生を追いこんで、幻の名作「紅天女」の上演権を
奪おうと画策しているのです。なので「若草物語」の悪口を
劇評家に書いてもらうのです。しかし、「紅天女」を書いた脚本家・
尾崎一連を月影が愛していた、という説明が殆どないので
原作を知らないで見ると「なんでこだわるの?」ってなるかも)、
劇団つきかげはスポンサーを失いそうになります。そこで
「全日本演劇コンクール」に出場して、劇団としての名をあげるしか
ないところまで追い込まれます。しかし、小野寺と真澄の罠は
まだ続きます。つきかげが、マヤ主演の「たけくらべ」を東京予選で
演じることを知り、オンディーヌも同じ演目にして、姫川亜弓を
主役に立てます。原作にはない設定ですが、審査員の中には大女優で
亜弓の母の姫川歌子(元タカラジェンヌの華やかな美貌の人が演じて
いてお似合いでした)もいるし、そうしとけばつきかげは負ける、と
計算してのことです。
亜弓の印象的な美登利役のたちげいこを見て、「あんな完璧に
できない!」と自信喪失のマヤ。先生に「亜弓さんみたいに
やれなんて誰も言わない。あなただけの個性をいかしたヒロインに
すればよい」と言われて立ち直ります…。
そんなレッスン場に、マヤの母が劇団にマヤを連れ戻しに来ます。
ここでは、お母さんの罵りセリフが原作より激しくなっていました。
「お前なんかが女優になれるもんか」とマヤを罵倒し、月影先生を
詐欺師みたいに言うわけです。セリフが激しくなった分、動作は地味に。
漫画だと、熱湯が煮えたぎっているやかん(なんで劇団にそんなものが
あったのか今思えばなぞだが)をマヤ母が手にして、マヤに向かって
投げつけたのを月影先生が「顔は役者の命です・・・」とかばう、という
シーンがあったんですが・・・この母親が、泉ピン子風でリアルでした。
そしてもう一組の母娘が出てきます。亜弓と歌子です。亜弓の
稽古している姿を見て「あなたは、原作そのままの美登利を完璧に
仕上げるしか勝ち目はないわね」と言い、亜弓は落ち込んで
歌いだします(音楽劇だから)。
♪ママ 私は間違ってしまったのー? みたいな歌詞です。
正直、このシーンが一番違和感がありました。七光を何より嫌う
実力を認めてほしがりの亜弓が、母に演技プランを相談したり、
そのアドバイスを聞いて落ち込むわけはないのです。更に
自分の完璧な演技プランに彼女は自信を持って取り組む、
強く美しい、誇り高い少女なのです。
舞台の上には、個性的な役作りをする月影とマヤ、そして
原作通りに仕上げていく亜弓と歌子、の2組の女優が
それぞれ左右に立っています。そして歌で、役をめざして
頑張るわーみたいなことを歌っていくのですが、正直、もっと
どんなふうに役を作ってるか見せてほしかった(笑)。
音楽劇が悪いわけじゃないけど、何でここが歌?みたいな
感じが多かったな~と私は思いました。
ここで、1幕が終わりです。