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「三月の招待状」角田光代

「三月の招待状」角田光代
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大学でともに青春の日々をすごした5人の男女。
若かった皆も、もう34歳。同じだけ年を取っている。
うちひと組の男女の離婚パーティーから物語は始まる。
浮気な夫・正道と、学生時代から振り回されていた妻の裕美子。
ライターとして成功しつつある充留。彼女とは逆に、
1度は小説家として成功したはずなのに今はくすぶる宇田男。
そして学生時代から地味だったけれど今は専業主婦として落ち着いている麻美。


5人の34歳の春から翌年の春までの1年と少しの間を描いた物語。
相変わらず、言葉のチョイスとかがどうも好きになれないんだけど、
今回の小説は、好き嫌いを超えて、私には必要な1冊だった。というか
こういう小説を読んで自分についていろいろ考えたかったというか。
(というわけで、今回のレビューはむちゃくちゃ長いです。そして本のテーマと
ぜんぜん違うところに着地すると思われます)←予告。

結婚とか離婚のあたりは私にはあまり興味のないエピソードだった
んですが(離婚した正道の新しい彼女が元妻に対していろいろ
考えちゃうあたりとかは丁寧に描かれていて、うまいと思ったけど)
私にとって「女子グループって・・・女の子の友達って・・・そして
つまんなかった大学時代って・・・」というくすぶり続けている思いを
角田さんに書かれてしまったーという感じですっきりした。いや、
見たくなかった自分の姿を書かれて、逃げ隠れしたくなったけど、
ああそうね、と腑に落ちちゃったというか。

学生時代から恋愛に生きていた裕美子と充留に対して、地方出身で
「ダサく見えていたらどうしよう」と必死になっていた地味な麻美。
それは、かつての私そのものだ。しかし、そう思ってた時点である意味
もう「ダサかった」のだと思う。そういう思いを抱いてしまった時点で
ダサくて暗いわけじゃないですか、心の中が。どんなに必死で化粧を
覚えようとしても、バイトしてお洋服買っても。で、そういう暗さって
どんなに冗談言ったり飲み会で楽しそうに振舞ってても、毛穴から
ちゃんとにじんじゃうんですよ、絶対。

当時の私は、そんなだったから、癒し系のマイナスイオンではなくて
凹み系のマイナスオーラが出てたと思う(笑)。

で、そんな辛気臭いオーラを放つ女を、皆が放置しておいてくれれば
「友達のいない暗い女」という、救いのないところまで落ち着いちゃって
開き直れたかもしれないけど、そういうマイナスオーラがあるからこそ
私がいいっていう人もいたわけです、当時。

実際に、裕美子も充留も、麻美のことは嫌いじゃないし本当に困って
いるときは話も聴いてあげている。でも、彼女の身に何か劇的な
ことが起きた、と聞かされると「妄想じゃないか」とか「氷川きよしに
のめりこんでるおばさんみたいなものじゃないか」と、簡単に
見下してしまう。友達づきあいはしてても、魅力的だとか尊敬できるとか
そういう感情は一切無い関係っていうのは、人によってはアリなんだな、
と、この小説を読んで私は改めて思った。

しかし、そういう「なんか馬鹿にされてるなー」とか「なんかしょぼいなー」と
お互いに半信半疑でも、学生時代の友達づきあいって結構ずるずると
続いてしまうんです。特に、大学って、暇なときは暇だから。

特に私は、生まれて初めての一人暮らしをしていて、馬鹿だったので
自分だけが部屋に帰ったら一人なんだ、みたいに思ってた。授業が
終わったら、皆は、友達とか家族とかバイトとか彼氏とかいろいろと
楽しい時間があるんだろう、と思ってた。東京に山のように地方出身者が
いるというのを理論上わかっていても。なので、会ったあとに魚の
小骨のように引っかかる軽いいやみを悪気無く言う友達や、話が
会わなくなった彼氏でも、離れていかれるのはつらいなーと思って、
相手の需要に合う自分でいようと無意識のうちにしていたように思う。

そんなことしてるなら、フツーにひとりで自分らしく部屋にいるなり
散歩するなりしてればよかったのに、誰かといやすい自分を
無理にカスタマイズしていた。つまり「ちょっとお調子者のしょうもない
とうこちゃん」と扱う友達の前では必要以上にばかなことを言って
みたり「物を知らないから「しょうがないなー」って声をかけてやってる
俺の彼女」という彼氏のニーズにこたえるために、知ってることを
知らない、ととぼけて…もう、今のおバカタレントを非難する資格が
ないんじゃないの?みたいなフリ、をしていたわけです。

そうやって、自分探しどころか、自分壊しの大学時代を送っていた
のですが・・・

えっと、のろけじゃないんですが、そのばらばらになりかけていた私を
元の自然な姿に戻してくれたのは、現在は旦那となっている男の人との
出会いがきっかけでした。

しょっちゅう「またのろけてない?」と旦那自慢をして呆れられがちな私
ですが、これは、本当に心から、もう世界中にのろけたいというか、
この点においてだけは本当に、一生ありがとう、みたいなことがあった。

何が具体的にあったわけじゃないんだけど、彼と出会って、付き合い
はじめたら・・・私に「こういう女の子だったらいいのにな」みたいな
押し付けを一切してこない人だったので、最初は「私のどこをどう
思ってるのかな? 彼は」と不安があったんだけど、普通に会いたい時に
会いたいといわれ、腹が立てば怒られ、私も彼につられてむかつくときは
相手に対する好意や尊敬の気持ちはさておき今日のあなたは最低!と
いえるようになった。東京に来てから、初めて顔色をまったく伺わず
彼そのものをちゃんと見て付き合えた相手かもしれない。そうやって
勝手にしているのに、付き合い始めのころは、本当に大切に大切に
好いてくれて、え? あなたの望む私、みたいなものを目指してもない
のに、このままでいいの?と本当にビビりつつ、毎日のように会って
いるうちに、「これでいいのだ」とバカボンパパの境地に至ることができた。

そんなある日、学生時代、もっとも私のことを「愉快なお調子者で
お笑い要員としてだけ徹底的に親しくするわよー」的な女友達と
久々に会った(彼女は遠くの地方で仕事をしたいたこともあり、
ブランクが数年できたのだ)。彼女は相変わらず、会話の端々に
私を茶化し、小ばかにし、「親しみを感じてるからこうやっていじって
あげてるのよ」風な発言をされた。これまでの私だったら…彼に
会う以前の「東京でなんとかやっていくには、嫌われないように、相手の
喜びそうな態度にしておこう」というある意味いやらしい媚びの姿勢を
貫いたと思う。しかし、「なんでこんなこと言われてるんだろう」
「どうしてこんなつまんない人とお茶なんか何時間もしなくちゃいけない
のかな」と、彼女といる意味自体無いことに気づいてしまった。その反面、
私をからかい、茶化し、道化のように扱い続ける彼女の言葉がいちいち
苦痛で、だんだん心臓が痛くなり、吐き気さえ覚えた。そしてようやく
話が一段落ついて「私、これから用事があるから」と自分から席を立った。

学生時代だったらありえない。どんなに自分がつまらなくなっても、
会話をする相手がいるほうがマシだと思ってたので、誘われれば
何時間でも付き合ったし、自分から時間を切るなんてこと、なかった。

そして、彼女と別れたあと、私は、まるで発作の直前に薬を必死で
探し出して急いで飲み込むように、携帯電話で彼に電話をした。
「い、今ね、友達としゃべってたんだけど、ぜんぜん面白くなかったの。
なんか、いろいろ押し付けられて、あなたってこうよねって決め付け
られて、もう嫌で嫌ですごく気分悪くなって」と、私は爆発していた。
もう、人に媚びたり迎合したり相手の望む自分になりきって付き合って
もらおうなんて思えなかったのだ。彼は黙って聞いていて、そして
こう言った。「俺のほうが面白いんだろ? いいよ、わかるから」と。
その日以来、彼は私の恩人だ。

結局、その後、相手に気は遣うけど(大切な人だったら普通に、自然にね)
媚びたり顔色を伺うような友達づきあいはすっかり卒業してしまった。
その結果、いつでも会いたくてたまらない友達、忙しくても絶対に連絡
したくなる友達、など、心底大切な人と楽しい時間を過ごし、そうじゃない
ときは、ひとりで本を読んだり買い物に行ったり、あるいは何もせずに
ぼんやりしたり、という、別の楽しい時間をすごせることも知った。

どんな友達や彼氏でも、いないといけない、と思っていた未熟な私と
この小説の、皆に軽く見られて「地味よねえ」とか鼻で時々笑われながら
ずっと一緒にいる麻美が重なった。麻美は少しだけ図太くなって
友達とこれからも向き合い続けていくようだけど、私は、断ち切れて
よかったと思っている。

この小説の中に、別の人物がかつて自分をいじめた人間に向かって
「今も誰かを傷つけて楽しんでいる?」と笑顔で言い放つ、というちょっと
痛快なシーンがあるのだけど、私も、いまだに言いたい人が2人くらい
いるんだけど、そんなこと言いに行く暇があったら、あの人にメールを
したいし、あの人とご飯を食べに行きたいし、恩人の旦那氏の肩でも
揉んでいられれば、今は十分幸せなのです。

そしておそらくこれを読んで「もっと自信もたないと!」とか「不当に
自己評価が低いよ!」と本当にちょっと怒ったように言ってくれるであろう
友達がいることを思うと(こんな私に…いるんです)、その幸せをより
強く実感することができるのです。

そして、なんとなく今までの作品なんかのイメージもあわせると、
基本冷静、時々は見下し側のちょっと意地悪さんだった気がする作者
ですが(書いているもののイメージでなんとなく)、見下し側と
見下されてる側双方の愚かさ、みっともなさ、あつかましさなどを
きちんと描ききっているところはさすがです。文体や雰囲気の
全体的にゆるい感じはあまり好みじゃないのですが、今回の作品は
内容がみっちりつまってて、考え考え、時間をかけてしっかり読み込んで
しまいました。
by tohko_h | 2008-09-09 01:10 | reading