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「彼女の命日」新津きよみ

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「彼女の命日」
新津きよみ
楠木葉子・35歳。
父の死後、気の弱い母と
お勤めがちゃんとできない
問題児タイプの妹を支え
製薬会社で働くがんばり屋。
そんな彼女にも、年上の
恋人との結婚話が…


ところが、会社の帰宅途中、引ったくりの刃物によって
葉子は命を奪われてしまう…
それから1年後、別の女性の肉体に憑依した葉子は、
母や妹、そして恋人が自分を喪い、どう生きているのかを
知るために、かつて家路だった道を急ぐ。そこで彼女が
見かけたこと、知ったことは・・・

亡くなった人が誰かの体を借りてこの世に期間限定でよみがえり
生き延びた人たちに何かのメッセージを伝えたり、彼らのその後を
見守ったり、というパターンの話って、割とよくある。浅田次郎の
「椿山課長の七日間」なんかはその中では傑作の部類だと思う。
そして、死者と生者の限られた邂逅っていうのはドラマティックで
感動的なストーリーとして描かれることが多い。

が、しかし、このお話はシビアだ。
たった1年しか経っていないのに、時を止めてしまった自分を
置き去りにして新たな道を歩き出している家族や恋人の姿に
葉子は、傷つき、怒り、そして、やるせない思いにとらわれる。
自分の死をあっさりと乗り越えられたらたまったものじゃない。
このまま、割と短期間で忘れ去られるのではないか、なんて
考えちゃったら、本当に、つらくなると思います。

更に、誰かの体を借りて…ということで、もとの主の事情にも
葉子はからんでいくことになる。幸せそうに見える妊婦、
母親とディズニーランドに行って帰る途中だった女子中学生、
ダサい伊達めがねをかけておばさんっぽい服装の冴えない女性、
そして、ひとりで静かに生きているOLらしき女性…どうやら
女性の魂は女性の肉体に入ることになっているようだ。

てっきり、「自分を殺した犯人探し」を誰かの体を借りて行う話かな、
なんて思ったのだけど、そういうミステリーではなく、人の心の
移ろい行く様や、死んでもなお生きたいと願うヒロインのせつなさが
地味ながらじわっと伝わってきた。
by tohko_h | 2008-10-16 23:57 | reading