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映画「博士の愛した数式」

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博士の愛した数式
2005年
監督・脚本:小泉堯史
原作:小川洋子
撮影:上田正治、北澤弘之
音楽:加古隆
出演:寺尾聰(博士)
    深津絵里(家政婦)
    齋藤隆成(ルート)
    吉岡秀隆(のちのルート)
    浅丘ルリ子(博士の義姉)


原作の小説は読んでいた。
家政婦のシングルマザーが、事故の後遺症で
80分ごとに記憶を失ってしまう老数学者の家に行き、
彼から数字の楽しさ、美しさを教わる。そして、
彼女の一人息子「ルート」は、博士と年齢を超えて
友情を結ぶ。そんな彼らを、隣の家で暮らす義姉(博士の
兄の妻)は冷ややかに見ている・・・
数学オンチの私でも、博士の数字への愛情に胸がぎゅっとなる、
そして、人と人の心が、数字を介して通じ合っていくプロセスの
シンプルでまっすぐで優しい感じが、たまらなくよい小説だな、と
思ったし、最後は少し泣きながら読んだ。
でも、映画は見に行かなかった。
原作の小川さんの文章が端正でなおかつとても美しいので、
映像化したら、ある程度よいものはできるんだろうけど、小説を
読んだときの感動まではいかないだろう、となんとなく思って
いたのである。あと、これといって派手な動きのある話じゃないから
映画バージョンは意外と退屈なんじゃないかしら、とも思った。

でも、テレビで放映されていたのを見たら、もう、これが、いいんである。
原作もいいけど、映画もいい。どっちがよりいいか聞かれたら、困る。
小川さんの美しい文章に惹かれて読み勧めた小説だったけど、
この映画の中にも、汚い言葉は一つも出てこない。
やはり、美しい言葉に満ちている。主役が数字なら、きれいな
日本語は名わき役だ。てめえ、とか、ばか、とか、死ね、と
毎日、どのテレビでもラジオでも日常的に流されてると思うし、
私たちだって心の中で舌打ちをしつつ、そういう汚い言葉を
頭の中だけでつぶやくことは結構あるだろう。そんな言葉なんて
なかったように進んでいく世界。光が美しい画面もあいまって
ある種のファンタジーのようだ。

皆が、美しい発音で、さほど叫んだりわめいたりせずとも、きちんと
相手のほうを向いて、まっすぐな素直な言葉で簡潔に話す。
音楽も、絶対に役者のせりふをつぶすようにはかぶさってこない。
たったこれだけのことだけど、最近の映画やドラマも楽しく見てるけど、
そのへんは、結構荒い作りになってるものも多いので、ある意味
古風な感じさえした。
(「北の国から」でぼそぼそと話してる純=吉岡さんも、学校の先生、
という役柄なのだが、すっきりと聞きやすい話し方で教壇で生徒たちに
授業をしていた!)

物語は、数学教師になったルート(彼の頭を博士がなでたら、平たかったので、
つけてくれたあだ名。「どんな数字でも嫌がらずに自分の中にかくまってやる、
実に寛大な記号、ルートだよ。」と優しく博士は語った)が、かつて、
博士と母親と10歳の自分が過ごした過去の時間を振り返る形で
語られる。博士の愛した数々の美しい数字や、思い出とともに。

この、回想形式っていうの、最初はべただなーと思ったんだけど、
博士とのふれあいで数学を後に愛するようになるルートの目線、というのが
ちょうどよかった。

そして、たった5人しか出てこない主要人物が、皆、役にぴったり。
で、皆、声がきれいなので、いいセリフがよりよく聞こえました。
まさかあの小説がこんなに美しい映画になるとは!
という驚きを差し引いても、よかったです。
黒髪にジーンズにエプロン、という地味作りの深津さんがやたら
可愛かったのも印象的。
by tohko_h | 2009-01-31 20:33 | watching