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「あやし うらめし あな かなし」 浅田次郎

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「あやし うらめし あな かなし」浅田次郎
先日、映画「椿山課長の四日間」を見て、
「やっぱり浅田次郎はいいなあ」と思い
久々に書店の「あ」のコーナーで
未読の文庫本を探してみました。
で、見つかったのがこれ。タイトルからも
推測できる通り、ホラー仕立てのお話
だけを集めた短編集。映画でも漫画でも
ホラーって苦手でいつも避けているけど、
読んでみることにした(「蒼穹の昴」も
結構エグいシーンはあったけど読めたし)。


「赤い絆」
おばが遊びに来た姪たちに寝物語として話した恐ろしい話。
山の上の神社に現れた学生風の男と遊女風の女性。
いかにも心中を覚悟しているようなふたりを助けたいと神官と
その家族は願うが・・・心中は最悪の形で破綻する。

「虫篝」(むしかがり)
破産して会社を失った男が妻と子を連れて夜逃げして
移り住んだのは、東京の端の静かな町。そこに、男と
そっくりな外見でありながら身なりのいい紳士が現れ
家族や近所の人と接触しているらしい・・・?
男は、自分に似たその男の話を不審に思い・・・

「骨の来歴」
都立高校の同級生として出会った苦学生の少年と
エリート外交官の娘。ふたりは恋に落ちるが、娘の両親は
交際に反対して「大学に受かってからにしろ」という。ふたりを
引き裂こうとする両親と、彼女をあきらめるしかないと投げやりに
なった彼が引き起こした悲劇とは・・・

「昔の男」
看護師として働いているヒロイン。恋人とはそろそろ結婚かも、という
雰囲気だが、人手不足の病院を自分がやめたら、尊敬する
先輩看護師がいっぱいいっぱいになってしまう。そんなある日、その
先輩がとても素敵な紳士と外でデートしているのを見かけたヒロイン。
デート相手の意外な正体とは?

「客人」
お盆の夜に銀座のバーで飲んでいる主人公。適当に入った店の
ママが、迎え火のたき方に詳しかったことから、行きずり同然の
相手だというのに、家に連れて行き、死んだ両親のための火を
たいてもらう。しかし、お盆に帰ってきたのは両親だけではなく・・・

「遠別離」
ある冬の夜。時は戦時中。東京で召集された兵隊が皆集められる
赤坂の衛兵所で、兵隊たちは寒さと体調不良に苦しみながら
身の上話などを語る。若い兵士は、自分の妻は美しいだけでは
なく、ある不思議な力を持つと打ち明けて・・・

「お狐様の話」
「赤い絆」と同じで、おばがかたった昔の話。ある日、立派なおうちの
美しいお嬢様に狐が憑き、山の上の神社に、憑き物落としのために
つれてこられる。幼かったおばたちは、その美しい少女の着物や
持ち込んできたしゃれたお菓子にうっとりするが、彼女に憑いていた
狐のパワーはとても強く、調伏が難しいと分かる。そして惨劇への
恐ろしいカウントダウンのような日々が始まった。

浅田さんのお母さんが神社の出身ということで、実際に聞かされた話を
モチーフにした「赤い絆」と「お狐様の話」はとにかく怖いです。映像化が
できないのではないかな、と思うくらい絵的にもホラーなシーンが満載。
しかし、心中をしそうな遊女が縁側であでやかな色合いのお手玉をしている
シーンとか、狐に憑かれたお嬢様の赤い振袖とか、色彩の描写が凄く
印象的。
「骨の来歴」の男女関係のやるせなさは、「椿山課長」の椿山と同僚女性の
話とも少し通じる感じがしたし、「昔の男」は、看護師という仕事の尊さを
描いた感じが「シェエラザード」にも似た感じがした。

人間を描く天才の浅田さんにかかると、ホラーでも、「人間が
一番怖い」みたいな話にも読めて、それがまた恐ろしい。

あとがきとして浅田さんのインタビュー記事〈制作秘話など)が載っていて
その中で印象的だったのが

「僕が小説を書くときに考えているのはね、分かりやすく書く、美しく書く、
面白く書く―――この三つなんですよ。これは小説に限らず、総ての
芸術に共通する三要素だと思うのですけれどね」というコメント。

難解→高尚→芸術→わからないからすごいと思っちゃう、という流れのものも
あるけど、私は分かりやすく美しいものを好むので、この作家さんの姿勢は
心底尊敬できるし信用できると思いました。

※最後に、ひとつだけ!(右京さん風)
「遠別離」の中に、東京ミッドタウンらしき建設現場でバイトをしている男の子が
出てくるんだけど、共通一次で失敗して浪人、と書いてあった。時代的に
すでにセンター試験になってたんじゃないだろうか。彼の家には液晶テレビがあり
浪人した彼はマンガ喫茶でさぼってたらしいし、どう考えても私〈センター世代)より
下の世代の男の子らしきキャラで・・・共通一次は受けられないと思う。
すみませんねー細かいところが妙に気になるのが私の悪いクセ〈笑)。
by tohko_h | 2009-03-08 13:30 | reading