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「神去(かむさり)なあなあ日常」三浦しをん

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「神去なあなあ日常」三浦しをん
三浦しをんは人間関係を描くのが
うまい作家だ。この関係は良い
とか良くない、とか決めつけず
ただ、その関係性を読者に
読ませ、酔わせてくれる。故に
駅伝や文楽という一見親しみ
にくい題材も人間ドラマとして
多くの読者の支持を得るし、
前作「光」のように、暴力を
介した果てしなく昏い運命を
背負った人々の物語にも
ずぶずぶと読み手を引きこむ。


さて、そんな三浦しをんさんの新作は、人間関係がとても限られた
ある山奥の村で林業を営む人々の物語だ。林業ということで、
人と人との話に限らず、木や山などの自然と人間の関係性も描きこまれ、
大変読み応えのあるチャーミングな小説だった。

高校卒業後も進路が決まっていなかった主人公の勇気(18歳男子)は
興味も知識もまったくない状態で、ひょんなことから(そう、これは私の
大好きな「ひょん系」の物語でした!)神去という土地で林業の研修を受ける
ことになる。頑固そうな老人に、荒っぽい先輩の木こり、そしてなぜか
美人の多い女性陣・・・個性豊かなキャラクターに囲まれ、慣れない肉体労働を
強いられ、更に、山の神様を信仰する彼らとのカルチャーギャップに戸惑いながら
勇気はしだいに、働くということ、自然とともに生きることを覚え、この村や
木を伐採する仕事、山を育む仕事を愛しはじめるのだった・・・と、あらすじを書くと
なんとも平凡になってしまうのですが、本当に面白いです。語り手に、山に暮らす
人々から見たら異分子的な存在である勇気を据えることにより、読んでいる側も
林業に携わる人々の特殊性に一緒に戸惑い、村の田舎ぶりにびっくりし、
困った人たちに翻弄され、山の神様の祝福を受け…なんともハッピーな
読後感を味わうことができます。特に、48年に1度の祭りのシーンは
読んでてゾクゾクしてきます。そして山での仕事の描写も素晴らしく、
アウトドア系から程遠い私でも、憧れてしまうほどです。そして感動のピーク
直前でそらすようにマンガが出典?みたいなギャグが出てきたり、なんとも
全体的に作家の遊び心なども感じられ、ほんとうにゆったり読めました。
内容は濃いんだけどゆったりとした余裕があるような。
なんかそれって、緊張感を強いられるハードな仕事を日々続けながら
タイトルにもなっている「なあなあ」(この地の方言で、ゆっくり行こう、とか、
まあ落ち着け、という意味)な感じも忘れていない神去の人々みたいです。

正直、三浦さんのエンタメ系小説って、読むとき、ファンのくせに私の腰は
いつも重たくなってました。書店で「三浦しをんの新刊だー」と飛びついても、
興味がなかった箱根駅伝がテーマだったり、見たことのない文楽の世界の話
だったりで、即買って読みだせないことが多かったのです。作品で扱う世界が
あまりにも遠くて興味持てなかったらどうしよう、みたいなためらいがどうしても
あって。今回も「林業?」と帯のあおりを見て、書店で見かけたその日には
買わずに帰ってしまいました。でも、次の日、ほかの用件で出かけた書店で
「でも気になるー」と買って、読みだすとにやにやしっぱなし、みたいな…
嬉しいいつものパターンでした。

人間と人間の関係性のみならず人間と自然の関係についても説教臭くならず
おおらかに描かれていて、最高です! 
by tohko_h | 2009-05-19 16:15 | reading