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「初恋温泉」 吉田修一

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「初恋温泉」 吉田修一
温泉を舞台にした5編の短編を
収めた短編集。どの温泉も
実在の温泉旅館の名前が書いて
あって、モデルとなった旅館が
それぞれあるようなので、ロケ地
巡り的な楽しみ方もできる1冊。
タイトルといい清々しい装丁と
いい、ふわふわ浮かれた気分で
読むと、ちょっといろんな意味で
裏切られちゃいます。


離婚寸前のカップル、婚約者同士のカップル、不倫旅行(京都で待ち合わせって
なんつーベタな!)、妻を置いてひとりで温泉に向かう男、そして、
やりたい盛りの(下品な書き方すみません!)高校生男子とその彼女カップル、
という、さまざまな人たちが温泉旅館で繰り広げる悲喜こもごもが淡々と
描かれており、一見淡い印象しかなさそうなんだけど、読み終えたあとに、
湯あたりしたみたいに、なんかくらっと疲れというか、ずっしりした読後感があって
意外でした。読んでいる間は正直かるい読み物気分だったので。


「幸せなときだけをいくらつないでも、幸せとは限らないのよ」と離婚を決意した
妻が「お前を幸せにしようとやってきた」と言う夫に静かに告げるひとこと。

合コンで幹事をつとめるにぎやかなカップルが、静かなカップルと遭遇して
過ごす不思議な空気感。

不倫旅行に行き、ふとした瞬間に相手の配偶者の様子を思い知る一瞬。

温泉旅行に行きたいと言っていた妻と口論になってしまう危険なスイッチ。

そして、高校生男子が露天風呂で彼女に誓う幼い愛の言葉。
「浮気してふたりの女と12時間ずつすごしたりするより、
好きな女と24時間いたい」という彼に、彼女は「24時間いたら楽しい
ことばかりじゃないよ。喧嘩だってするんだよ」と告げる(同級生カップルって
やっぱり彼女のほうが大人っぽいケースが多いのかな。すると彼は
「…だったら、ひとりの女と、十二時間いちゃついて十二時間喧嘩するよ」と
真顔で言うのだ。正直、高校生が温泉旅館? ちょっといかがわしくない?
なんておばちゃん根性で思ってしまってたんだけど、このシーンは
美しいな、と思いました。

これという事件もなく、温泉旅館で誰かと(含む自分自身)向き合ったときに
見えてくるぼんやりとした本音や気分。その中の真実を淡く描いたからこそ
くっきりと印象が強い。そんな小説です。
by tohko_h | 2009-05-26 14:53 | reading