人気ブログランキング |

「WILL」 本多孝好

a0079948_108658.jpg
「WILL」本多孝好
高校卒業間近に親を亡くし、
そのまま家業を継いだ森野。
それは、町の商店街にある
小さな葬儀屋だった。親の
代からいてくれる竹井と、
バンドマン崩れの新人の桑田、
たった3人の小さな店だが、
難しい案件が持ち込まれる。
葬儀の後に「父の霊が出てきた」
と言ってくる高校時代の同級生、


彼の葬儀をやり直して欲しい、奥さんが喪主なんていや、と再葬儀を
求めてくる愛人を名乗る女性、死んだおじいさんの生まれ変わりだと言って
老いた未亡人のもとに通う15歳の少年…ひとりひとりの事情に
クールなはずの森野は深くかかわることとなる。そして、彼女自身も、
アメリカにいる大好きな人との関係を見直すことに・・・

本多さんの小説は、文章のせいか、装丁やタイトルのせいか、すごくおしゃれで
でも印象が薄い、というイメージがあった。でも、今回の小説は良い意味で
人間くさい。ちょっとコテコテすぎるほどの生々しい描かれかたである。
町の商店街の小さな葬儀屋、という舞台設定がよかったのか、あるいは
ヒロインのぶっきら棒だけどまじめなキャラクターによるものか。

とにかく、おしゃれすぎて気後れして遠目に見ていたあの子が、話してみたら
気さくでステキな人だった、みたいな、嬉しい裏切りでした。
ベテラン葬儀社員の竹井さんや、バンドマンで最初は使えないヤツだった
桑田などの脇キャラが魅力的。

「MOMENT」という作品の続編的な位置にあたるそうですが、そんなの知らずに
読み始めて十分楽しく読めました。むしろここからさかのぼって「MOMENT」に
戻ってみる(主人公の高校時代が出てくるらしい)のもありかもしれません。

作中、年老いるまで何ひとつ不自由せずに暮らしてきたような女性が、落ち込んだ
息子を励ますために「私たちはこうしてつらいことがあっても家族で励ましあえる。
一生ひとりの人もたくさん世の中にいることを思えば、まだ幸せかもしれない」と声を
かけているところに、まさにその「一生ひとり」の該当者にあたる女性が通り過ぎて
思い切り傷つく、というシーンがある。私はこの傷ついた女性にとても感情移入した。
というか、自分の正しさや幸せを確かめるために、違う属性の人たちを思い出し
「ああいうのよりは、マシ」っていう考え方が凄く嫌いなのです。

でも、実は、そういう思考回路を持ってる人が羨ましいところもあって。

だって、そうやって、誰かを自分より劣る、と見下すことによって「私は最低じゃない」
と思えるのって、凄く目に見える形で安心を得られそうじゃないですか。

自分には、そういう意味での相対評価的優位性を自覚してほっとしたときが
生まれてこのかたないんです。10人の人間の中にいれば自分が10位、
100人いれば100位、みたいに、いつも自分が最悪の存在だと思ってる
ところがあって。なので、臆面もなく「あの人よりはマシ」みたいな感覚と
それを信じられる自信が、ステキとは思わないけど、いいなーとは思ってるんですよね。

いつか私も程よくずうずうしくなって「でも、私のほうがまだいいよねーあんな人より」
とか言って、「あんな人」を自分より下位の存在だと思うことができるんだろうか。
なりたいのかなりたくないのかよくわからないけど、自分が何でもいつでも最下位、
みたいな精神状態が常、というのも病的だなーって最近思うのです。
by tohko_h | 2009-10-11 10:15 | reading