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2007年 07月 30日 ( 1 )

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「息がとまるほど」
唯川恵
(2006年9月
文藝春秋刊)
「不運な女神」とセットで
不運な女性シリーズ、と
勝手に名づけたくなるような
唯川恵の短編集。帯には
恋愛小説集、と銘打って
あるけれど、これは、
恋愛がうまくできずにもがく
女たちの物語、というのが
一番合ってるかもしれない。


「無邪気な悪魔」 
28歳の朋絵は、頼りになる不倫相手と、好感の持てる同僚の男性に
恵まれる、という充実の会社員生活を送っている、しかしある日、不倫相手と
バーにいるところをある女性に目撃されて…最後のどんでん返しが見事です。
滑稽でシニカルで、おそらく林真理子さんあたりだと、その後の修羅場まで描くと
思うのですが(というか、そういうのを書くのが上手なわけだし)、
救いのない状況が明るみになったところでスパッと幕を引くのが
唯川さんの淡い個性の物足りないところでもあり、不気味なところ。

「ささやかな誤算」
銀座でそこそこ売れているホステス・珠子は、そろそろ、愛人から
お金を引き出して独立して店を持とうと思っている。
順風満帆に計画は進んでいたが、ある夜、店に飛び込んできた
ひとりの女が、その計算を狂わせて行く…2時間ドラマ風。
珠子みたいに人のいいホステスって、浅田次郎の小説の
脇役なんかにもいそうだ。

「蒼ざめた夜」
20歳以上年上の資産家の男性に恋をして、妻子から奪って7年…
あの頃の私には体当たりできる若さがあったけれど、今はもう、と
心を痛めている早紀。ある夜、女友達に待ち合わせをドタキャンされ
ひとりふてくさって飲んでいたバーで声をかけてきた男に、思わず
独身だ、とウソをついてしまうが、彼のほうは妻がいるという。
ふたりは逢いつづけ、やがて…これもちょっとしたミステリー風の
オチがつく。

「女友達」
保険会社に勤める浅子は、平凡な女友達・佐智のようにありふれた
つまらぬ男と結婚してかわいくない子供を育てることで満足するような
人生を送りたくない、と思い、自分にふさわしい相手を吟味している
37歳の独身女性。結婚相談所で出会いを求めてはみるものの
自分につりあう男はなかなか見つからず…美人じゃない若い
後輩OLが酒の席でからむ場面は読んでいて気分が悪くなるくらい
えげつなかった(褒めてます)。

「残月」
諒子(りょうこ)は、離婚歴のあるキャリアウーマン。自分で雑貨店を
経営し、妻はいるものの仕事ができて頼りになる恋人がいて、
充実した生活を送っている。何でも手に入れられる…と思った彼女の
前に現れたのは、ありふれた、何も持っていないひとりの大学生だった。
取引先のこの青年と諒子は、しだいに急接近していき…年下の青年に
若さへの羨望とも憧憬とも言い切れない複雑な思いを持つヒロイン。
しかし、実際に、都会で何でも持ってる37歳の女性が、そんなに
若さに対してまぶしい、とときめくものだろうか。このへんが、唯川文学の
律儀に古風なところなんだよなぁ。

「雨に惑う」
中谷美紀さん主演でドラマになった唯川さんの長編で
ストーカー文学の傑作「燃えつきるまで」が好きな方には
一番お薦めの1編。「燃えつきるまで」のほうは、恋人が心変わりした
新しい女にストーキングをするヒロインが出てくるが、こちらのヒロインは
会社での鬱憤などを通りすがりの女に対して向けていくところがブキミだ。
しかし、ヒロインがその女を憎む理由には薄ら寒い説得力が。

「一夜まで」
愛する夫ともっと愛している娘と暮らしている人妻の波子には、年に1度だけ
逢瀬を重ねている恋人とも呼べない男性がいる。中学時代の家庭教師だった
島本だ。この奇妙な取り決めができるまで、ふたりには葛藤があって…
これも、設定はありふれているものの、青春のしっぽみたいな家庭教師に
執着する女心が生々しく描かれていて迫力があった。

「あね、いもうと」
ふたごの姉妹。妹の結婚式の日、相手は現れない。そのまま失踪した
花婿の行方は? そして、姉も、ヒモ同然のカメラマンとの同棲生活が
ゆきづまっていて…実家に戻った妹は、バラの花を育てたい、と突然
言い出す。それにはヒミツが…これも幕切れが見事。桐野さんとかが
書きそうな怖い世界が唯川テイストで情念系の話として見事に着地。
シメにふさわしい、濃厚で、読んでいるこっちの息がとまるほどびっくりした
最終話でした。
by tohko_h | 2007-07-30 23:14 | reading