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2007年 09月 30日 ( 1 )

「動機」横山秀夫

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「動機」横山秀夫
最近、ミステリにハマり中の
実家の母から借りた1冊。
横山作品の魅力は、
淡々とした文章なのに
熱いハートの警察官の
狂気にも似た捜査への
執念、裁判所関係者等の
奇麗事ですまない本音等、
警察とか司法とか、割と
スクエアできちんとしている
ことを常に求められがちな人たちや、新聞社という組織の中で
もがきながら特ダネを追う記者たちなどの、制服や肩書きから
はみ出した人間くささも描いたところだと思う。

ありがちな言い方で言うと「登場人物たちの
息遣いが聞こえてくるような」的な褒め方に
なってしまうのだが、事件のトリックやからくりに
主眼が置かれ、キャラが薄味で物足りない、
という複雑怪奇系ミステリーと比べて
人間がまず先にありき、という描かれ方が
私好みである(トリックやアリバイの話より
事件に至る動機や感情の流れに興味があるので)。
4編収録はずれなし、全部、短編の大切なポイントである
幕切れは、もう、浅田次郎の泣かせといい勝負の
絶賛って意味であざとくてスコンと落ちて終わる話ばかり。
それでいて不思議な余韻があるのがまたすごい。

「動機」
ある夜、警察手帳が30冊まとめて盗まれた。
署内での一括保管を発案した貝瀬が
自分の立場を守り、この手帳の一括保管の
システムを続けるための方法はただひとつ。
警察手帳を盗んだ人を見つけ、30冊を
取り戻すこと…しかも、マスコミなどにかぎ
つけられずにうまく。貝瀬の孤独な捜査の
行方は?

「逆転の夏」
行きずりの女子高生を殺した罪で総てを
失い、刑に服した男が主人公。ある夜
見知らぬ相手からかかってきた殺人依頼の
電話で、自分の中の黒い思いに気づく
主人公が、最初は相手にしなかった
見知らぬ電話の主の言葉に揺れていく
過程が密度の濃い畳み掛けるような
エピソードを重ねて描かれている。
そして、最後に主人公が見た「逆転」とは・・・

「ネタ元」
タイトルからいかにも、の新聞記者が
主人公の小説である。29歳の事件記者
真知子には、ある秘密のネタ元が。
中央の大手新聞社からの突然の引き抜き
話に「私が欲しいのではなくてネタもとが
欲しいから?」と揺れる心情が描かれる。
男性作家が描いた女性って「こんな女
いないよ!」とか「これが好み?」みたいに
ついつい突っ込みたいくらいワンパターン
だったりすることも多いのだが、本作の
記者職の女性の勝ち気なひらきなおりと
気弱な自信喪失状態の狭間で分刻みで
仕事をしているという設定と心の動きには
感情移入しやすかった。途中までは
若い男性記者が主役でもいいのでは?
なんで女の人なんだろう、とも若干
思ってたけど、ネタ元の最後のやりとりを
読むと、このヒロインで大正解!と思えます。

「密室の人」
法廷で居眠りした裁判官。眠っただけなら
ごまかせたかもしれないけれど、妻の名を
呼んで目が覚めてしまうという大失態を
犯してしまう。前妻が死んでから迎えた
年の離れた若くて美しい妻・美和の名を
いくら大切に思っているからといって、
公判中に叫ぶとは・・・裁判官生命を
断たれてしまいそうになった主人公は・・・
組織の中での人間の葛藤を描くことが
多い横山作品ですが、考えたら「半落ち」
などで夫婦や家庭の話もとても繊細に
描ける作家さんだったことを思い出させ
られました。この裁判官夫妻の物語は
なかなか深い読み応えがあります。
by tohko_h | 2007-09-30 18:16 | reading