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2010年 12月 03日 ( 1 )

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「聖母 ホスト・マザー」仙川環
著者は、大阪大学医学系研究科修士課程を修了後、
大手新聞社で医療関係の記者をしていたという
経歴の持ち主である。それ故に、この小説の中で
物語られる代理母出産問題をめぐる問題点や
現状の描写のリアリティのすごさに読むと打たれる。
しかし著者は、その行為が正しいか正しくないか
倫理的なお説教のために本作を描いたわけではない。


物語は、30歳前に病で子宮を失った主婦を中心に展開する。
彼女が代理母出産を考えるとき、日本では、他人の子宮を借りることは
認められていないので、実母か、兄嫁に頼むしか無い。
50歳を過ぎて更年期に悩む実母は、娘のためにすすんで子宮を提供したいと
申し出る。一方、健康で既に二人の実子に恵まれている義妹は、義姉夫妻の
受精卵をかわりに身ごもる役目に抵抗をおぼえ、避けたいと願う。その
みなの思いのすれ違いが、家族間に冷たい隙間風を吹き付けて…
そう、これは、新しい家族の誕生のために誰が何をするべきなのかそれぞれが
悩み(だって絶対的な正解なんて無いんだし)苦しむ、ビターなホームドラマの
一種なんだと思う。
正解が無いから悩むし、エゴに直面して悩むし、諦められないし、もがく。
その人間らしい主人公や家族たちの心理描写が丁寧で、同じ状況になったことなんて
今までもこれからも無いのに、ぐいぐい引きずり込まれて「もしも私だったら?」と
つい想像してしまった。お産は素晴らしいもので、新しい生命は尊い、という
一面も本当だし、体を張った危険で勇気を必要とするものだ、というのも本当。
その周辺で苦しんだ登場人物たちが本作の最後にたどり着いた答えまで読みきって
最後に大きく息を吐いた。本当に、読んでいる間中ずっと緊張してたんだ、私。

定価660円→本体価格680円
この読み応えは、ちょっと定価を越えたかも?? 内容もボリュームも
たっぷりしてたし。徳間文庫、サービスいいです、この値段設定。
by tohko_h | 2010-12-03 00:48 | reading